給与明細の文字を書き換えた写真をフェイスブックにアップ
隣の部屋はカキのむき身加工、通称「カキ打ち」をおこなう作業室である。取材時はすでにシーズンの末期だったが、それでも年季が入った作業台には身を取り除かれたカキ殻が山をなしている。バケツのなかにはアルバイトに来るという日本人名のほか、カタカナのベトナム人名の木の名札がいくつも入っていた。
室内のベニヤ板の裏には、子どもがマジックペンで描いたらしい、崩れたアンパンマンの顔の落書きがある。
「ベトナム人の実習生は真面目な子もいるけれど、全体的に見栄を張りがちじゃわ。自分の給与明細、本当は月9万円なのに、文字を29万円に書き換えた写真をフェイスブックにアップして『こんだけもらってます』と言ってみせたりね」
川上が続ける。
湾内に係留された漁船で、ノンラー(ベトナム式の編み笠)をかぶった男女が立ち働いているのが見えた。私が話を聞いている間、カメラマンの郡山総一郎は、通訳のチー君を引き連れて屋外で盛んにシャッターを切っているようだ。昭和以前からそれほど景色が変わっていなさそうな日本の漁村で、円錐形の異国の帽子をかぶった技能実習生の姿は被写体として魅力的だろう。
「ベトナム人実習生の仕事ぶりは、会社によっても違うが、ある程度は厳しくやらないといかん。やさしいお婆ちゃんが、自分の孫みたいにして『これを食べな』『服を着な』と大事に扱うようなところでは、付け上がって真面目じゃなくなる。あと、最初の2~3年は真面目でも(技能評価試験に合格して技能実習3号になる)4~5年目からいきなり適当になるやつもおるね」
「じゃあ、事故を起こしたジエウさんはどういう人でしたか?」
「あれは……。際立ってひどかったわ。日本に仕事をしに来たとは思えんほど、特に不真面目な印象じゃった。万事がものすごくいい加減で、こいつ何しに日本に来とるんじゃ、と僕らも思ってたよ」
アポなし突撃取材
私たちが瀬戸水産にたどりつくヒントをくれたのは、ジエウの妹のフエンだ。
彼女は被告人の妹にもかかわらず、国選弁護人から面会を断られた。目の前で見ていて気の毒だったので、私たちはひとまず彼女がセカンドオピニオンを聞けるようにと、つくばみらい市内の別の弁護士事務所を調べて、法律相談に付き添ったのである。さいわい、こちらは良心的な事務所で、仮釈放直後のボドイ(編注:技能実習先を逃亡するなどして不法滞在・不法就労状態にあるベトナム人の総称)であるフエンの経済状況をみて、相場の半額の費用で1時間の相談を受け付けてくれた(もっとも、ここでの見解も「ジエウの量刑はほぼ変わらない」というもので、フエンを失望させることになった)。
フエンは昭和の女子学生のような可憐な外見だが、ボドイ歴が長いためか非常に実利的な性格だ。日本人に対しては、相手の利用価値を考えて付き合ったり、交換条件がないと動かなかったりする傾向がある。私は彼女に弁護士を紹介したことで、姉のジエウの情報を教えてもらうことができた。