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ブルボン朝の料理政策

 18世紀のフランスは、ヨーロッパの料理文化をリードする存在でした。

 ブルボン朝はパリのサロン文化や啓蒙思想、新しい習俗を海外にアピールする文化政策を進めており、この新習俗のなかに宮廷の食文化も含まれました。腕のいい料理人には活躍の機会と名誉が与えられ、フランスの料理文化は急速に成熟していきます。

 ヴェルサイユ宮殿では、毎日のように晩餐会が催されました。当時のコース料理は、スープ、アントレ(肉、魚貝料理)、ロー(焼き上げた肉料理)、アントルメ(野菜料理)、デザートでした。中世のコースから分類も品数も増えましたが、1皿ごとの料理は少量になりました。たくさんのお皿に少しの料理。現在のフランス料理のイメージに近づいてきました。

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 ある日のヴェルサイユ宮殿の晩餐会メニューをご紹介します。肉類の冷製スープ、タマネギ入りスープ、羊のピーマンソース、若じゃこのサルミ風、若鶏の串焼き、サーロイン牛の薄切り、雉のパテ、アーモンドケーキ、コーヒーを煎じたクリーム……。

 これまでの宮廷料理にあったダイナミックさは影を潜め、洗練された印象の品々が並びます。フランス料理が他国の美食家から憧れと尊敬を集めたのも理解できます。

食べまくる王族たち

 さて、宮廷の頂点にいた王の食生活はどのようなものだったのでしょう。

「太陽王」と呼ばれたルイ14世(1638~1715)は、かなりの大食漢でした。レイモン・オリヴェ『フランス食卓史』によると、ルイ14世はある日の夕食で、フルコースを平らげた後に、さらに鶏2羽、鳩9羽、しゃこ1尾、若鶏6羽、仔牛肉4㎏、若鶏3羽、雉1羽などを延々と追加注文しています。現代のフードファイターも顔負けの量です。また、すでに食器やテーブルマナーが定着していたにもかかわらず、手づかみで食べる癖がなかなか抜けなかったといわれています。

 うってかわってルイ14世のひ孫であるルイ15世(1710~74)は、エレガントな食べ方で知られています。特にフォークさばきが達者で、直接手を使わずに半熟卵を食べたそうです。一方、妻のマリー・レクザンスカ(1703~68)の方は豪快な人物で、冷えたイチジクとメロンを食べ過ぎたり、15ダースもの牡蠣を飲みこんで死にかけたりといった逸話が残っています。

 ルイ16世は、マリーとの結婚式でガツガツと夢中で食事をしていたという逸話があります。ほかにも常にパンを携えていたとか、豚のすね肉を無我夢中でしゃぶっていたとか、美食家というよりも、食への執念を感じさせる話が多い印象です。あくまで俗説に過ぎませんが、フランス革命に絡んだエピソードもあります。革命後の1791年、ルイ16世は妻マリー・アントワネットや子どもたちとパリ脱出を企てました。しかし、その道中で、彼は協力者からの食糧の差し入れに満足できず、昔の家臣の家で食事をしたいといいだします。このワガママのために時間をロスし、国王一家は身柄を拘束されてしまったともいわれています。

 このようにヴェルサイユには、並はずれた美食家と大食漢がそろっていました。料理人も作りがいがあったでしょう。王族たちの期待に応えるべく、フランスの宮廷料理はどんどん洗練されていきます。

味つけ革命

 18世紀のフランス宮廷の料理は、どんな点がほかの時代や地域とは違ったのでしょうか。前段として17世紀半ばに、フランス料理は中世の香辛料を多用し酸味の強い味つけから肉・魚のブイヨン(だし)を使う味つけに移行していました。 18世紀、マリー・アントワネットの時代には香辛料の供給が安定し、以前よりも価格が下がっていました。次第に、香辛料を使う目的が、味の調整へとシフトし、やがて、それまでになかった複雑で奥行きのある味つけの手法が発明されます。

 具体的にはソースが大きく進化しました。もともとはポタージュなどのスープで使われていましたが、この頃からソース単独で仕込まれるようになりました。この時期のソースには、マヨネーズソース、ホワイトソース、デミグラスソースがあります。ソースのベースになる「フォン」の原型も発明されました。仔牛を煮てつくる「フォン・ド・ヴォー」や魚介から味をとる「フュメ・ド・ポワソン」などがそれにあたります。結果として、繊細な味わいの料理文化が形成され、「グランドキュイジーヌ」と呼ばれるフランスの高級料理の骨格ができあがります。

 こうした「味つけ革命」によって、18世紀にフランス料理の多様化が進みました。たとえば、17世紀のフランス料理書に掲載されたメニューの数は約600でしたが、18世紀には2000を超えるようになります。多様化の背景には、大航海時代に冒険者たちの持ち帰った野菜が定着したことも挙げられます。さて、マリー・アントワネットや王たちが食べていた宮廷料理を再現してみましょう。