コメルシー風マドレーヌ
最後の一品はマドレーヌです。現在では国境を超えて親しまれている焼き菓子ですが、18世紀のフランスでその産声を上げました。
フランス東部にあるコメルシーという小さな町で、元ポーランド王の領主がパーティーを開いたときのこと。菓子担当の職人が料理長とケンカをしてしまい、帰ってしまうというハプニングが発生します。その場に居合わせたメイドが、ありあわせの材料とホタテの貝殻を使って焼き菓子を作りました。領主や仲間はその焼き菓子を絶賛し、やがてフランス全土に広がります。焼き菓子はメイドの名前にちなんでマドレーヌと名づけられました。
コメルシーに伝わる伝統的なレシピでは、レモンの皮を生地に練りこみ、香りづけします。甘さにさわやかな風味も加わって、とても優しい味です。
ちなみにマドレーヌを食べた元ポーランド王の領主は、ルイ15世の妻マリー・レクザンスカの父親でした。ヴェルサイユ宮殿にはすぐにマドレーヌが持ち込まれたに違いありません。スイーツ好きだったマリー・アントワネットも舌鼓をうったことでしょう。
食の政権交代
スパイスの使用を控え、野菜を取り入れたイタリア人たちの料理文化を、フランスの宮廷料理人たちはさらに進化させ、フォンやソースといった奥深い味つけの手法を発明しました。ハーブやスパイスをブレンドする手法が味つけの基本だったこれまでを考えると大きな変化です。
18世紀フランス料理の多くでフォン・ド・ヴォーやフュメ・ド・ポワソンといった出汁が使われています。いずれも洗練された味わいを持ち、現代でもめったに食べられない高級料理です。王族たちが暴飲暴食をしてしまう気持ちもわかる気がします。マリー・アントワネットにとって、こうした食事が日常だったのでしょう。
18世紀フランス料理は、お祝いごとがある日やゲストが来る日など、誰かをもてなしたいときにはうってつけの料理です。ぜひ仲間たちといっしょにヴェルサイユ宮殿へ料理でタイムトリップしてください。