その橋脚の壁面には、時間の経過とともにオレンジ色に変色した苔がびっしりと生えており、えもいわれぬ風情を醸し出している。
「尾小屋鉄道の廃線跡の中でも、ここは鉄道ファンや写真家たちのあいだで、一番の人気スポットになっています」(坂井さん)
木橋の遺構付近には、土砂崩れを防止するために、六角形の「亀甲カラミ」が積み上げられていた。カラミとは、鉱山で銅を製錬する際に生まれる不純物などを固めたもの。尾小屋では尾小屋鉱山から出たカラミを六角形に成型し、石垣や建物の壁、住宅の基礎などに活用してきた。六角形の「亀甲カラミ」があるのは、世界でも尾小屋だけだと言われている。
『千と千尋の神隠し』に出てくるようなトンネル
取材班は木橋の遺構を見たあと、来た道を引き返して、もうひとつの人気スポット「第1トンネル」に向かおうとした。第1トンネルは、旧長原駅と旧倉谷口駅のあいだにあるトンネルで、車が立ち入れないため枕木などが現役当時に近い形で残っているという。
しかし、坂井さんから「今は藪が生い茂りすぎて、入れなくなっています。ヤブ蚊もたくさんいて刺されると大変だから、行くのはやめたほうがいい」との助言を受け、あえなく断念。
以下の写真は、坂井さんに提供してもらった第1トンネルだ。ジブリ映画『千と千尋の神隠し』の「トンネルのむこうは、不思議の町でした。」というキャッチコピーを口に出して言いたくなるような雰囲気がある。
その後、旧金野町駅から旧金平駅に向かう途中にある石橋や、旧大杉谷口駅付近にある鉄橋なども案内してもらった。
坂井さんは「こうした迫力のある遺構を見られるのが、廃線跡巡りの醍醐味なんですよね」と頬をゆるめた。