お笑いコンビ「ダンサブル」の有田久徳。そう説明しても、ピンとこないかもしれない。だが、『タモリ倶楽部』の「空耳アワー」に出演する空耳俳優、尻男優の有田久徳――と説明すれば、「あ!」と膝を打つ人は少なくないはずだ。

 一度見たら忘れることができない、あの名演はどのようにして生まれるのか? そもそも、有田久徳とはいかなる人物なのか? 

 売れてはいない。しかし、局地的なスター。空耳が、空耳俳優が、なぜ面白いのか。そこには理由があった。(全3回の3回目/最初から読む

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©文藝春秋

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――現在、有田さんは芸人活動に加えて、高円寺で駄菓子バー「BJ Bar」と、居酒屋「小粋」を経営されていらっしゃるんですよね?

有田久徳(以下、有田) そうですね。「小粋」は、22年の8月にオープンしたんですけど、「BJ Bar」はもう10数年になります。バーの方は、コロナ以前には、全国から『タモリ倶楽部』ファンの方々がお店に来てくださったりして、「空耳アワー」(以下、空耳)のファンの方だけでぎっしりになることも珍しくなかったです。番組スタッフや事務所の人に、「聖地巡礼みたいになっているんですよ」と伝えても、「またまた~」って信じてくれないんですけど、ははは。

 新婚旅行で東京に遊びに来たご夫婦がいて、お二方とも空耳ファンらしく、「有田さんに会いに来ました」って寄ってくれたこともありました。どう考えても新婚旅行で来る場所じゃないですよ(笑)。

空耳俳優の「副業」事情

――そもそもなぜバーを経営することに?

有田 もともと、このバーがオープンして2年目のときに、アルバイトとして働き始めたんですね。それから10年くらいして、オーナーさんから「自分でやってみるか」と譲っていただき、僕の経営になったという感じです。

――「小粋」の方は? 

有田 僕自身が、ここのお店の客だったんです。コロナ禍になってマスターが「辞めたい」と言い出したんですけど、常連さんが集うとても良いお店でした。ちょっとだけ僕にも蓄えがあるんで、「僕にやらせてください」とお願いして、居ぬきで譲っていただいたんです。店内にあるメニューはもちろん、串打ちの仕込みもすべて自分でやってますよ~。

有田さんが経営する居酒屋「小粋」(東京・高円寺) ©文藝春秋

――先ほど、ご自身で「座持ちのいい芸人」と仰っていましたが、愛されるというか、その意味がわかった気がします。

有田 何でしょうね、僕は楽屋しか面白くないと言われる芸人なんで(笑)。「BJ Bar」にアルバイトで入ったときも、近くのアパートの家賃は全部オーナーさんが出してくれて、住まわせてくれました。それまで松戸に住んでいたんですけど、松戸から高円寺に通うのは大変だろうからって。変な話、僕、東京に来てから自分で物件を借りたことがほぼないんですよ。