文春オンライン

奥歯を自力でペンチで抜く、「その歯は抜く必要ない」と反論…女性歯科医師の診た“ヤバい患者”

2023/02/07

genre : ライフ, 社会

note

 実際、この患者さんに限らず痛みさえ止まれば歯の治療を途中でやめてしまう人が多い。しかし歯の病気はほとんどが進行性のもので、痛みが取れたからといってもその歯が治ったわけではない。

 虫歯を放置すれば虫歯は進行するし、神経を取った歯はそのままでは脆いため、割れたり欠けたりする危険性がある。噛み合わせが合っていない歯がある場合は、他の噛み合っている歯に負担がかかりすぎて結局他の歯も駄目になりやすいのだ。

「その歯は抜く必要がない」と主張

 また外来でこのようなケースもあった。以前から前歯が揺れていると感じてはいたものの、痛みはないからと長らく放置していたところ、急に痛みが酷くなって来院された患者さんだ。

ADVERTISEMENT

 その前歯のレントゲン撮影を行ったところ、右側2本は歯の周りの骨が吸収されている、いわゆる“歯周病”が進行した状態で、2本とも抜歯の必要があった。

 ただ、この症例の場合、叢生という歯の一部が重なった歯並び(いわゆる乱杭歯)をしていたため別の歯が絶妙にストッパーになっており、1本は一見揺れがわかりにくく、ご本人は「その歯を抜く必要はない」と主張する。

 レントゲンや口腔内を一緒に確認しながら右側2本は残せないですよと何度も説明したが、「今回は自分の考えと一致する1本だけ抜いてください」とおっしゃっるので、やむをえず1本だけ抜くことに。

©AFLO

 結果的に、1本抜いたことで隣の歯もグラグラなことに気づいたようで、次の来院時には最初の診断通り隣の歯も抜歯することとなったが、その後は入れ歯などの治療に現れることはなかった。セカンドオピニオンで他の歯科医院に行っているならまだいいが、あのまま放置していたのだとしたらこれもまた非常に“ヤバい”状態だ。

 前歯は本来噛み合う歯ではないので、一見すると放置しても審美以外に問題はないように思える。だが歯を抜いてスペースが空いたままだとそこに隣の歯が倒れてきてしまい、長期的にみると結局は噛み合わせの崩壊につながるので危ないのだ。