──ギャップという言葉が出ましたが、ストーリーをつくるうえで、現実と創作世界を切り離すのが難しいと感じる部分はありますか。
白倉P 逆のやり方もあるとは思うんですよ。現実はいいことばかりじゃなく、最近だとコロナ禍も含めて、辛いことや厳しい局面がたくさんあります。だからこそ、「せめてフィクションの中だけでも夢を見たい」という思いを否定はしません。
でも『ドンブラザーズ』の場合は、現実風刺や社会のひずみを描きたいと思ったわけではなく、「日常感覚を持ったままのヒーローを描く」というコンセプトを貫いた。その結果、こんな話になったということです。
「戦いを強制しない」自由で楽しいスーパー戦隊
『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』のテレビ朝日プロデューサー・大川武宏氏にも話を聞いた。
──大川さんは、本作に第27話以降から参加されたそうですね。途中参加で驚きや違和感はありませんでしたか。
大川 僕は初めてスーパー戦隊シリーズの担当になったのですが、最初は視聴者の方と一緒の気持ちでした。「わけがわからない」と思っていたんです(笑)。
桃太郎の話と聞いていたのにオニが仲間にいたり、「ノート」や「ジュート」など、よくわからない言葉が出てくるし。
──実際に関わってみて、その思いは変わってきましたか。
大川 ええ。わからないことばかりでしたが、しっかり作品を見始めたら、登場人物がイキイキして、面白くて。スーパー戦隊としての斬新さに驚きましたし、画期的だと思いました。
それに、戦いを強制しないし、戦士側だけにプレッシャーやストレスをかけすぎないですよね。それが今の時代っぽくていいな、と。
「互いの楽しさを尊重したい」今の時代へ根源的なメッセージ
──責任を一点集中させず、分散するというのは、スポーツ戦略や組織経営術にもあてはまりそうですね。
大川 ええ。今は、絶対的指導者に全てを委ねる時代ではなく、個人の価値観を尊重する時代です。だから、『ドンブラザーズ』は現代の感性と非常に相性がいいと思いました。
ドンブラザーズのメンバーは、ひとりひとりの職業や背景が全く違う。けれど、全員が顔見知り仲間で、「喫茶どんぶら」に集まってダベる。この「互いの楽しさを尊重したい」という根源的メッセージが、今の時代っぽいなと。
あと、井上先生の脚本がすごく自由で楽しいんですよね。1980年代の『週刊少年ジャンプ』は実に黄金期だったと思いますが、『ドンブラザーズ』には、あの時代のマンガのお気楽さや、キャラクターの天衣無縫な無邪気さに通じるものを感じます。大人にもオススメの作品です。