2000年代半ば以降、飛躍的な進歩を遂げてきた古代DNA研究。たとえば、ネアンデルタール人の祖先から現生人類(ホモ・サピエンス)が分かれた時期は長く約20万年前と推測されてきたが、現在では約60万年前と明らかになっているとか。さらに両者は分岐後も交雑を繰り返しており、人類の進化は以前より複雑な道筋で捉えられている。同分野の研究が2022年にノーベル生理学・医学賞を受賞したのも記憶に新しい。そんなホットな学術分野の知見を、国立科学博物館の館長であり、分子人類学を専門とする著者が概説した新書が好調だ。
「日本人のルーツを最先端研究から問い直す一連の著作で知られる篠田先生に、今度はさらに範囲を広げて、人類全体の世界史的ルーツまで一望できるような本を……とお願いしたのが、本書の企画の始まりでした。念頭にあったのは、金城一紀さんの直木賞受賞作『GO』なんです。人種差別に対抗する知見として分子人類学の議論が引かれていて、衝撃を受けた記憶がありました。本書も誰かにとっての“切実な”一冊になればと願い、制作しました」(担当編集者の楊木文祥さん)
サイエンスに興味がある一般読者はもちろん、示される壮大なビジョンでSF作家のあいだでも話題に。歴史好きの読者も多い。人文知と科学の交差が、読者の広がりにも繋がっている。