ただ、実態は出稼ぎだ。実習生の大半が高額なお金を送り出し機関に払い来日しており、入国後にすぐに返せないとなると失踪の原因になる。
実際、2018年に法務省が失踪した実習生2870人に対し行った聞き取り調査によれば、失踪前の月給(手取り額)は「10万円以下」が過半の1627人を占めた。着目すべきは、1週間あたりの労働時間数だ。労働時間数が長いほど失踪者は少なく、1週間の労働時間数が「50時間以下」が全体の約8割を占めた。労働時間が短いほど、失踪者が多くなる。出稼ぎが目的である以上、残業も賃金の高い夜勤もウエルカムだ。
「出稼ぎ国」の魅力が薄れる
さらに言えば、より高い賃金がもらえるなら、行先が日本である必要はない。
1990年代のバブル崩壊から失われた10年が20年、30年と続く日本。経済協力開発機構(OECD)によれば、2020年の日本の平均賃金は加盟35か国中22位の3万8514ドル(1ドル110円で424万円)。1位のアメリカ(763万円)はこの30年間 で47.8%増になっているが、日本は4.4倍とほぼ横ばいだ。1990年に比べ、平均賃金は18万円しか増えていない。2015年にはお隣の韓国にも抜かれ、2020年時点で38万円の差がつけられている。
賃金格差があるから東南アジアの若者たちが日本を目指すわけで、日本人の賃金が上がらないことには、「出稼ぎ先としての日本」の魅力が薄れてゆく。
来日するために母国で借金をしている実習生は全体の約55%
目下、賃金が上がらないだけではなく、急速な円安が進む。
出稼ぎに来る外国人労働者への影響は大きい。例えば、ベトナムの通貨ドンは、コロナ前の2020年1月3日時点で、1円=214ドンだった。それが本書最終校正作業時の2022年9月23日時点では1円=165ドンと約20%以上目減りしている。同じ10万円を送金しても、母国に着くときには8万円の価値になっているということだ。
借金の返済も大変になる。
出入国在留管理庁が2022年7月に公開した調査結果によれば、派遣手数料や日本語の事前教育費などの名目で、来日前に母国の送り出し機関に何らかの費用を払っている実習生が全体の約85%いる。その平均額は52万1065円で、ベトナムが68万8143円と最も高く、次いで中国が59万1777円、カンボジアが57万3607円となっている。
来日するために母国で借金をしている実習生は全体の約55%。その返済は日本からの送金となるが、借金の支払いは現地通貨だ。円が安くなれば、その返済も膨れ上がる。