その間、何度もアクを取り、脂も取り除く。調理してどんぶりにスープを入れる時には、逆に一定量の牛脂を戻す。
しかも、出来上がったスープはその日のうちに使い切ってしまう。
こうすることで、いつでもフレッシュな牛骨スープが出せるようになった。
一番の売りは「肉」。それもどんぶりからはみ出すほど盛られたチャーシュー
さらに、店の売りは「肉」と打ち出した。「全国にはモヤシを多く入れる店もありますが、農業地帯のこの辺りでは満足してもらえません。皆が食べたいのは肉。よし、肉を食わせてやる!と決意しました」。
食肉製品製造業の許可を取り、精肉店と同じようなルートで肉を仕込む。スライサーも購入して思い通りの肉厚で切る。どんぶりからはみ出すほど盛られたチャーシューや、極厚の角煮がゴロンと入った麺は迫力満点だ。
中でもこのような発明があったのかと驚くような逸品がある。
牛レアチャーシューメンだ。
仕入れた肉で、レアのローストビーフを作る、これをスライスして牛骨スープのラーメンの上に盛る。そうすると何が起きるか。ローストビーフは輸入肉なのでほぼ赤身だ。ところが、熱々の牛骨スープに浸した途端、スープに含まれる旨味や脂分が吸着し、まるで黒毛和牛のような味わいに変化するのである。
黒毛和牛の美味しさは「和牛香(わぎゅうこう)」と呼ばれる香りに由来している。香りは主に脂に含まれていて、和牛の美味しさは脂の良さを意味すると言ってもいいほどなのだ。
林原さんが開発した牛レアチャーシューメンは、スープの中で赤身肉に脂肪を“交雑”させる。つまり、ラーメンが輸入肉を黒毛和牛に変身させるのである。
「だから肉がめちゃめちゃ美味しくなります。ここで食べる肉は焼肉店よりはるかに安いし、旨い。皆さん、未知の体験をすることになるのです」と林原さんが熱く語る。
実際に食べてみると……
私も試してみた。山盛りになった牛レアチャーシューを崩し、熱々のスープにしゃぶしゃぶのようにして浸す。すると魔法のように肉の味が濃厚になって、豊かな香りが漂った。スープに浸けないで食べては魅力が半減してしまい、浸けすぎると肉が固くなってしまう。まさにしゃぶしゃぶのような頃合いが重要だった。
「牛骨スープには何を合わせられるか。どのような変化が起こせるか。これからも牛骨スープで様々な挑戦を続けていきます」。林原さんは目を輝かせる。
米子市のラーメンには、牛骨という独特な世界が広がっているだけでなく、個性豊かな店主が多い。
今回は3人に代表してもらったが、食べ歩きで奥深さを味わってみてはいかがだろうか。
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