味の構成、素材、調理の仕方、提供方法、食事空間……。ラーメンという料理は時代とともにさまざまな要素が変わりゆく。そんな奥深き世界に魅了されたのがラーメン業界を専門に、デザイナー、イラストレーター、漫画家、エッセイストなどとして活躍する青木健氏だ。
同氏は、ラーメンが好きな同志に向けた気軽な入門書として『教養としてのラーメン ジャンル、お店の系譜、進化、ビジネス――50の麺論』(光文社)を著した。ここでは同書の一部を抜粋し、「食べずに味わう」ラーメンの世界を紹介する。(全2回の1回目/後編を読む)
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ラーメンに詳しい人は初めての訪問で「麺硬め」は頼まない
若い頃、先輩や上司とラーメン屋さんに行くと、「この店は麺硬めが旨いんだぞ」なんて、したり顔で言われたものでした。これは好みの問題ですので、個人の自由というのを大前提として、以下を書いておきます。
麺硬めというのは、味濃いめや油多めなどと同じく「刺激の強さ」です。ですから、特に若い人にとって魅力的であるのは、肉体的に自然なこと。ただ、ラーメンの麺は、そもそも小麦粉の品種やブレンド、水分量、太さ、長さ、形状など、店によってまったく違うものです。必然的に適正な茹で時間も異なります。麺は、茹でること(加熱)によって小麦粉のデンプンが水を吸って糊化し、独特の質感やコシが生まれる。つまりご飯と同じです。極端な話、茹できっていない麺は、炊きあがる前の米を食べるようなもの。
なんでもかんでも麺硬め、という人が増えすぎたせいでしょうか、近年は「麺硬めお断り」という店も目立ってきました。これは意固地なのではなく、水分量まで調整し、状態を確認しながら茹でている麺を、お客様により良い品質で召し上がってほしい……という、店主の気持ちでしょう。初めての店ではそのまま食べて、もし違和感があれば次回から頼んでみればいい。私自身も、麺に少し硬さが残っていると感じたら、再度伺ったときに「少し長めに茹でてもらうことはできますか?」とお願いしてみたり。どのお店も気持ちよく応じてくれました。
味のバランスにより、硬め、やわらかめ、それぞれ似合うラーメンがあります。九州の豚骨ラーメンには、バリカタやハリガネ、粉落としといった硬さの指定がありますね。私も何度か現地で食べ歩いていますが「バリカタ」という注文を1度も聞いたことがありません。なにも言わないか、せいぜい「カタ」。
私が20年以上通う近所の店では、麺の硬さに慣れた頃、よく粉落としで頼んでいました。昔、それを知っていた知り合いの店に行き、普通の硬さで頼んだのに、粉落としで出してくれたんです。ところが食べてみるとニチャニチャとして美味しくない。どの店でも麺硬めなどと言うのは大間違いだと痛感しました。ちなみに、替玉は同じ硬さで頼んでも、より硬く感じるもの。それを好む人のため、はじめに具入りのスープだけ出して、麺を替玉のように入れてくれる、「麺あと入れ」が可能なお店もあるのです。