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九州の豚骨ラーメン店では「バリカタ」の注文がほとんどない? ラーメンに詳しい人が初めての訪問で「麺硬め」を頼まない“納得の理由”

『教養としてのラーメン ジャンル、お店の系譜、進化、ビジネス――50の麺論』より #1

2022/02/16
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「青葉」「麺屋武蔵」「くじら軒」が激変させたラーメンの歴史

 1996年。それまでのラーメン店の常識を覆す3店が産声をあげた。中野「中華そば 青葉」、青山「麺屋武蔵」(青山店は閉店)、横浜市のセンター北「らーめん くじら軒」。この3軒が「96年組」と呼ばれ、現代ラーメンの基礎を構築したのです。

 各店に共通するものとして、まず言えるのは魚介出汁。「青葉」の魚介豚骨スープ、「麺屋武蔵」の秋刀魚の煮干、「くじら軒」は、香味油で香りを強調した淡麗魚介スープ+ストレート麺。どれも当時は新感覚の、魚介風味を強調したスープ。それまで存在しなかった味に、誰もが度肝を抜かれた。

そして新しい提供スタイル。「青葉」は「特製」というお得メニューと、つけ麺との2本柱。「麺屋武蔵」はあっさり・こってりの選択と、限定メニューの確立。「くじら軒」は、同じ醬油味のメニューにラーメンと支那そばがあること。

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ラーメン以外、立地や店舗そのものにも特徴が見られます。「青葉」は、中野の商店街に出店。寡黙な店主が黙々とラーメンをつくり、いかにも美味しい街場のラーメン店のイメージを凝縮。しかし店舗は赤ではなく白と焦茶で装っています。「麺屋武蔵」は、青山に続いて繁華街・新宿に出店。この新宿店があらゆる面で画期的なやり方を打ち出しました。洗練されたユニフォーム、ジャズのBGM、券売機の導入、湯切りの掛け声、女性への色付きグラスなど数えきれません。「くじら軒」はセンター北という住宅街に出店。飲食プロデュース会社「パシオ」が手がけた店舗で、掛け時計やヤカンなど細部に至るまでレトロ感満載。当時はパシオ系という言葉まであったほどです。

写真はイメージです ©iStock.com

 各店に貫かれているのは、コンセプトの明確さ。「美味しいラーメンを出しさえすればいい」という時代とは比較にならないほど、味、店舗、客層、接客、個性などに通じる一貫したコンセプトが、客の食欲と好奇心を煽り、心をつかんだのです。その味や考え方は、その後のラーメンシーンをガラリと変えるほど、強く影響を及ぼしました。企業のイメージ戦略やブランディングが個人店にも普及した形です。

 今では定番の、濃厚魚介豚骨つけ麺、限定メニュー、神奈川淡麗系などのジャンルも、96年組からの進化です。この3店に隠れがちですが、同年には「中華そば 多賀野」「柳麺 ちゃぶ屋」(閉店)も創業。両店ともに歴史に名を残す店で、この年がいかに爆発的変化をもたらしたかがわかります。古い話となりましたが、これがラーメン界最大の革命です。覚えておいて損はありません。