麺を啜る効用とは
麺を啜るという行為には、いくつもの意味があります。まず、唇をすべる感触です。つるつるっとしていたり、少し凹凸を感じたり。麺を知るための大事なファーストタッチ。すべらせることで質感がよく伝わります。レンゲにまとめて口中へ運んでしまうと、楽しみを一つ手放すようなもので、少しもったいない。
空気とともに啜るので麺やスープの熱をやわらげる効果もあり、ラーメンの魅力である「熱さ」を堪能しつつ食べられる。ちなみに猫舌というのは熱さに敏感という意味ではなく、食べるのが下手なことを表すという説も。その真偽はともかく、ボトルで熱い飲み物を飲むとき、飲み口を隙間なくくわえ込む人がいますが、あれでは誰だってヤケドします。麺も、ほどよく空気を含ませて食べたい。
そして、啜ることにより香りを一緒に吸い込むので、舌での味覚と同時に口腔内からの嗅覚で風味を感じ取れる……つまり、あと味に関わってくるのです。かように啜るという動作はラーメンにおいて大事なポイント。ただし、激しく濁音を響かせるのは(景気はいいが)意味がない気がします。慣れていればほどほどの音で啜り込める。
外国人、とくに西洋の方は、この啜る音をマナー違反として嫌がり「ゾッとする」と言って敬遠する人が多いですね。それを「わかってない」と非難する人もいるようですが、では我々日本人はどうでしょう。たまに遭遇するんですが、口を開いたまま「くっちゃくっちゃ」と、まるでガムでも嚙むような咀嚼音を立てる人がいます。あれは日本人だっておぞましい。もはや味もわからなくなる。その席に座った運命を呪います。西洋の方は生まれてからずっと啜る音がタブーなのですから、同じように不快でしょう。ただ、日本で見かける外国人の方々は、ラーメンの魅力にシャッポを脱いだのか、啜る姿も堂に入っています。
蕎麦でも、江戸っ子は「つるつる」は容認していたが「ずるずる」と大きな音を立てるのは下品とされたとか。また、戦後に噺家がラジオで落語を披露する際、身振り手振りが見えないため、蕎麦を啜る音を大げさに表現した。そこから音を立てて啜ることが広がった……なんて、冗談みたいな説も有名です。
これこそが正しいのだ、と肩肘張らず、人前では相手にも自分にも気を配ればよいと思います。個人的には、素敵なBGMが静かに流れているような店ではできるだけ音を控え、元気のいい接客の店なら、気にせずに啜っています。
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