「ラーメンに掛ける時間は他の店主に負けたくありません。プライベートの時間は全てラーメンに使っています」と、店に毎晩泊まり込んでいる吉田さんが、こだわり抜いて作るだけに、とりこになる人が多い。
麺は自家製の極細で、温度管理をしながら2日間熟成させる。細いのにもちもちとした食感が印象的だ。
スープの材料は牛骨に豚骨も加え、鶏のもみじ(足)、コンブ、イカ、ニボシ、ニンニク、リンゴ、ショウガ、ネギと10種類。これらを沸騰寸前に抑えて、4時間以上ゆっくりと炊く。その過程で出る脂を取り除くと、脂濃くない透明ですっきりしたスープに仕上がる。
原価率は高い。例えばコンブは高品質で知られる北海道・羅臼(らうす)産を使っている。
手間も惜しまない。トッピングはチャーシュー、鶏ササミ、メンマ、ネギ、刻み玉ネギ、バター、コーン、塩麹卵、豚ひき肉、梅干し、ノリ、自家製胡椒肉団子、背脂増し、生卵と豊富だが、ネギ一つ取っても辛くならないよう、県産品を切った後、水にさらして、酢水にさらす。さらにまた真水に浸けてから、水気を切るという念の入れようだ。刻み玉ネギは甘味が出るよう、軽く炒めてから出す。塩麹卵は、普通のラーメン店だと黒っぽい味付き卵だが、吉田さんは塩麹で白い味付き卵を作っている。
さらに100種類に及ぶ限定メニューまで! SNSで前日告知すると朝早くからお客さんが
極めつけは塩や醤油の定番メニューに加え、100種類にも及ぶ限定メニューだ。これらのうちから日替わりで数種類ずつ出している。取材に訪れた朝は「香る鶏油蒜ラーメン」「旨辛醤油」「海老塩ラーメン」「黒担々」「柚子と生姜の塩ラーメン」の5種類で、そのうち3種類は冷しラーメンも可能だった。こうした情報は約3000人のフォロワーがいるSNSで前日に流す。限定メニューを目当てに朝早くから来店する人もいるそうだ。
前出の鮮魚店で働く男性が頼んだのは「黒担々」。「麺大盛り。ネギと自家製胡椒肉団子をトッピングして、鶏油(チーユ)を掛けて」と注文した。「いろんなメニューがあるから、通うのが楽しみなんですよ」などと、常連になった理由を聞いているうちに、あっと言う間にスープまで飲み干してしまう。
私は「柚子と生姜の塩ラーメン」を頼んだ。爽やかなユズの風味が、チャーシューやノリと絶妙なハーモニーをかもし出す。ショウガで体が芯から暖まるので、まさに冬のラーメンだろう。麺をすすった後、ふわりと牛の香りが感じられて、上品なラーメンだった。和食に近いような気までしてくる。
「頑張っていれば、お客さんに来てもらえると思うんです」。そう、しみじみ語る吉田さんの人生が注ぎ込まれた一杯だった。