日本は至るところに山神信仰のある山国であり、とりわけ山では、怪体験をする人たちがいる。

 熊猟を生業とした伝説の集団「マタギ」の子孫をはじめとして、各地の猟師、または山に住む人々に怪体験を聞いた実話集シリーズ『山怪 山人が語る不思議な話』(田中康弘著、山と溪谷社)は、累計30万部を超えた。

 これを原作とした漫画『山怪 五 神様の孫』(漫画・五十嵐晃、リイド社)には、独特の墨絵で18編の怪体験が描かれている。

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山で方向感覚を失い、周囲にはキツネの足跡が…

 秋田県の森吉山山麓に住むベテラン猟師には不思議な力があり、山を見ると、どのあたりに熊がいるか分かる。岩の下にどれくらいのイワナが隠れているのかも分かる。

 そんなベテラン猟師が、キツネに悩まされたという。

 一般客のウサギ狩り体験をアテンドして、一列で斜面を登っていた時、1人だけ上がってこなかった。下へ見に行くと、その客は、同じ場所をグルグルと回っている。周りはキツネの足跡だらけだった。

 ベテラン猟師自身も、行き慣れた山中で迷ったことがある。歩いていると妙な感覚に襲われ、変だなと思うと、自分の目の前に足跡があった。周りを見ると、自分が通ったばかりの場所であり、足跡は自分のものだった。

『山怪 五 神様の孫』より(漫画・五十嵐晃、リイド社)

 方向感覚を失って、輪を描いて同じ場所を繰り返し歩くワンデリングだった。周囲を調べると、キツネの足跡を多く見つけた(「神様の孫」より)。

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 山では、子供が消えることもある。

 山梨県の多摩川源流域には、昔、キツネが憑りついておかしくなる人がいると、近くの三峰山の法者を呼んで祈祷してもらった、そんな集落があった。