1ページ目から読む
4/5ページ目

 勝ち負けも大事ですが、それ以上に持てる力のすべてを発揮することのほうが大切だと、私は考えていました。2001年、11年と2度の全国制覇を達成しましたが、これらのときもそうでした。優勝が狙えるメンバーが揃っていましたが、「負けたら承知しないぞ」とプレッシャーをかけることなど一切なく、夢にまで見た甲子園で全力プレーできるように監督が盛り上げていく。それこそが「伸び伸び」であると考えていたのです。

2001年の甲子園優勝時 ©文藝春秋

間違ったマナーは野放しにしない

 反対に「野放し」にしていけないのが「世間一般の常識」についてです。野球以外での日常生活における礼儀やマナーについては日頃から選手たちに口酸っぱく言い続けてきました。

 一例を挙げれば「あいさつ」です。三高では選手と合宿所で共同生活を送っているため、朝になれば当然、「おはようございます」のあいさつから始まります。ところが、これが「おはようっす」「おーす」などときちんと「おはようございます」が言えない選手もいます。このようなとき、私は全員の選手を集めてこんな言葉で注意していました。

ADVERTISEMENT

「あいさつってのは、自分が相手にいい言葉を送り、相手からもいい言葉をもらうことでお互い繋がって生きていると認識するものなんだ。だから『おはようございます』をしっかり言葉に出して言うんだぞ」

 野放しにさせないのはこれだけではありません。掃除の仕方や毎日使用する洗濯機やトイレ、お風呂でのマナーにいたるまで、注意すべきケースが出てくるとその都度全員を呼んで注意するようにしていました。

引退を表明した日大三の小倉全由監督 ©上野裕二

全員が理解するまで注意し続けることが大切

 このほかにも電車やバスなど、公共交通機関を利用する際のマナーについても話していました。監督の前では平身低頭していても、学校を離れたときに傲慢なふるまいをしていたというのでは話になりません。

 このとき選手たちから「いちいちうるさいな」と思われてしまったら、なかなか注意できないもの。そこで選手に注意するときには、

「ここで注意しなければ、いつまで経っても同じ過ちを繰り返してしまう。場合によっては1人ではなく、多くの人にご迷惑をおかけするかもしれない。それなら今、私が教えてあげるべきなんだ」

 という気持ちでいました。

 このとき私は選手を絶対に怒鳴ったりせずに、諭すように話すことを心掛けていました。私の言葉を一度で理解する者もいれば、2回、3回と言っても聞かない選手もいた。だからと言って、「1回注意したからいいや」ということには絶対にせずに、全員が理解するまで注意し続けることが大切だと考えていたのです。

 甲子園で勝ったことで多くの人からはそのことを賞賛していただきました。けれども「勝ったから素晴らしい」「負けたからダメなチームだった」ということは絶対にありません。三高野球部で2年4ヵ月の間、一生懸命悔いなく野球に打ち込む姿が見てとれれば、私は十分だと思っていました。