台湾の淡江大学国際事務與戦略研究所で人民解放軍研究をおこない続ける、台湾が誇る軍師の1人・林穎佑(Ying Yu, Lin)。記事前半で「2035年ごろまでは人民解放軍は攻めてこない」と述べた彼に、その根拠を尋ねた。(全2回の2回目/前編を読む)
2022年8月の大規模ミサイル演習の実態
――直近の人民解放軍の動きとして、2022年8月に台湾近海でおこなわれた大規模軍事演習についての評価を聞かせてください。
林 1996年の台湾海峡ミサイル危機と、今回の大規模演習を比較しても、中国側には大きな進歩が見られました。前回は事前の準備に1年……すくなくとも10ヶ月はかけていたのですが、今回は半年足らずで準備を完了したとみられます。
――2022年8月にアメリカ下院議長のペロシ氏の訪台がおこなわれた直後に、大規模演習がおこなわれましたが……?
林 私の見るところ、ペロシが来ようと来なかろうと、あの演習は早晩おこなわれていたはずです。まず、2022年1月、台湾を担当範囲とする東部戦区指揮官(司令員)の何衛東が、(同年10月に中央軍事委員会副主席に昇格する前の腰掛けとして)統合作戦指揮センターに移り、その後任に(対岸の福建省出身で台湾問題のプロパーである)林向陽が充てられました。
この林向陽は、前の赴任地からわずか1年で、東部軍区に呼び戻されて指揮官に就任した形です。他にも東部戦区・旧南京軍区系の人材の呼び戻しが多くおこなわれており、私はその動向を見て、人民解放軍の準備は2022年1月時点で整ったと判断しました。
――人事異動から予測ができていた。では、実際の演習についてはどう総括しますか?
林 人民解放軍は2016年から大規模な軍制改革を始めており、今回の大演習はその成果を示したものだといえます。もっとも、それゆえに大きな課題も浮上しました。まずはなにより「稼働率」(Availability)の問題です。今回、人民解放軍は11発のミサイルを台湾近海に撃ち込んだわけですが――。