中国軍はロシア軍と同じ問題を抱えている?
――ウクライナ戦争でも、開戦前は強いと思われていたロシア軍が、いざ蓋を開けてみると意外な苦戦を余儀なくされています。
林 そうですね。ウクライナ戦争は、人民解放軍の動きを考えるうえでも非常に参考になります。もちろん、ウクライナ戦争の場合は地続きで補給が得られる土地での陸軍の戦闘、台湾有事の場合はまず海軍・空軍の海上での戦争という形の違いはありますが、やはり参考になる。
先のミサイルの「稼働率」のエピソードから見えてくるのは、人民解放軍がウクライナ戦争におけるロシア軍と同じような(軍隊の練度の)問題を抱えているという推測です。そもそも、中国の兵器や戦術はロシア(ソ連)から取り入れたものが多い。ロシア軍が持つ弱点は、人民解放軍も共通して抱えている可能性が高いと見ています。
――ミサイルの発射数以外で、具体的にそうした問題が見て取れるものごとはありますか?
林 以前、中国の軍医病院の状況を調査したことがあります。軍そのものの情報はなかなか知ることが難しいのですが、病院の情報ならば比較的公開性が高い。外部からも収集しやすいのです。
分析をおこなったところ、新型コロナウイルスの流行初期に、軍医病院においてマスクをはじめとした物資の輸送や手配に、かなりのもたつきがあったことが判明しました。人民解放軍は2016年から組織の大幅な改組をともなう軍制改革に着手しましたが、改革後の後方支援業務が必ずしも順調ではない可能性がある。軍医病院の動きから、間接的に推測することができます。
――日本やアメリカの報道を見ていると、半年や数年以内に中国が台湾に侵攻しそうに思えてきますが。
林 侵攻が近いとは思いません。ウクライナ戦争によるロシア軍の意外な苦戦と、昨年8月の大規模演習によって、人民解放軍は新たに多くの課題があぶり出されることになりました。一定期間の調整が必要となります。米軍ですら、ベトナム戦争後の軍の改革には長い時間を費やしました。中国も軍制改革を終えて戦争ができる状態になるまで、かなりの時間を要するでしょう。
――なるほど。