1ページ目から読む
3/3ページ目

サウナ廃人

 大食いの記述と並んで外せない日記の定番要素が、「買淫」と「サウナ」だ。買淫の結果には細かく査定があった。曰く「当たり」「外れ」「大当たり」「中当たり」などなど。中当たりとはなんぞ? “根が細かすぎる性質にできている”西村さんの本領発揮である。

 サウナには晩年に至るまで20年間以上も通ったが、後年には自分のことを「サウナ廃人」と称していた。サウナブームを盛り上げるべく編まれたムックでは、「サウナなんて時間の無駄、苦行ですよ」とまでひとり悪しざまに語っているのだ。

ローマ字の書けない男

 新人作家の頃の西村さんが、コギャル言葉で匿名コラムをものしたことは知られているが、どこで覚えてくるのか、時々のスラングをよく収集して使うことを好んだ。

ADVERTISEMENT

 西村さんの著者校正は、ほぼ書き直しに近いようなものだったが、本人はある時からこれを「魔改造」と称し、少し得意げですらあったから質が悪い。魔改造を経ると、罵倒語や蔑称が充実するのが常だったが、なかでも「編輯者」には“バカな”などの冠が決まって付された。ゲラを受け取る編集者に向けての私信のようにも感じられた。

西村さんの暮らした部屋。師とあおぐ藤澤清造の写真と、墓標がある Ⓒ文藝春秋

 原稿は手書き、送稿はファクシミリのアナログ派だった西村さんだが、晩年は密かにスマートフォンを導入し、携帯メールを操った。メールアドレスはもちろん、seizo-watakushishosetsu××××××。自分の携帯に初めてそのアドレスが表示されたときには盛大に吹き出したものだが、担当編集者間でまことしやかに囁かれていた、“ローマ字が分からない説”は晴れて払拭された。

その他の写真はこちらよりぜひご覧ください。