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骨に達する複数の傷、内臓がはみ出るほどの大傷、首の傷は動脈を…

 報知は翌11月18日付で詳しい続報を載せている。

 郡部の強盗餘(余)聞

 北多摩郡神代村大字下仙川608番地、雑穀質商・内田邦太郎(25)方へ一昨晩1時半、1人の強盗が押し入り、主人にさんざん斬りつけ、金子を奪ったことは昨日の紙上に掲載したが、なお詳しいことを聞くと、雑穀商の傍ら質を取り、山林、田畑も所有。地価2000円(現在の約890万円)、営業税60円も納めるほどの身代(財産)で、下女2人、男1人を使い、都合15人暮らし。目下土蔵新築のため、多くの職人を入れ、うち屋根職人2人は同家に止宿していた。賊は北向きの同家裏の生垣と勝手の格子戸を破り、抜刀のまま入り込んだ。台所にあったランプの台の真ん中にろうそくを立て、そこから3尺(約90センチ)幅の廊下を伝わってそばの六畳間に入り、邦太郎が女5人男1人の子を脇に寝ている西側の座敷の障子を開け、「起きろ起きろ」と声を掛けた。妻すい(33)が目を覚まして見ると、頬かぶりして尻を端折り、1尺5~6寸(約45~48センチ)の抜刀を携えた男が立っているのにびっくりし、布団を被ってそばの夫を揺り起こした。

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 被害者の名前はここでは「邦太郎」で、「史談裁判第3集」では「内田国五郎」。年齢はのちに35歳に訂正されている。報知の記事は続く。

 邦太郎は賊と知って跳ね起き、剣道の心得もあるため、斬ってかかるのをものともせず曲者に飛びついて必死に争った。頭部、左右両手の負傷にも屈せず組み合って、甥2人が寝ていた西北六畳に転げ込みつつ「起きろ起きろ」と家内の者を呼び起こした。この間に邦太郎は後頭部に1カ所、左手に4カ所、右手に3カ所、胸に1カ所、いずれも骨に達する傷を負い、さらにへそのところへ1カ所突き立てられ、これは内臓がはみ出るほどの大傷。また背中に2カ所、首へ1カ所、重傷を受け、首の傷は動脈を切断したため、あえなくその場で即死した。賊はホッと息をして騒々しく女房の寝ている所へ行き、雇人が明かりをつけてきたのを脅して追い払った後、女房に案内させて銭箱から5円紙幣10枚、銀貨取り交ぜて2円余を奪った。さらに糸織(絹)の綿入れ、博多帯(福岡特産の絹織物の帯)、山高帽子を出させたが、帯だけ奪って悠々と出て行った。賊の服装は双子(織=縞の一種)の着物に紺足袋、紺股引だったという。賊が去った後、ようやく家人は駆け出して同村駐在所へ訴え、係官が出張して同日午後4時、八王子裁判所からも菊地検事が出張して曲者の行方を厳重に捜査中。