起業家の若者たちも同じ悩みを抱えている
――だいぶ変わったんですね。そういえば、若いIT起業家たちも仏教に興味を示しているとおっしゃっていましたが。
小野 僕の新人坊主としての試行錯誤をSNSで紹介することで、誰かの役に立ったらいいなと。そしたら発信してすぐに、見知らぬ若い起業家、それも20代でそこそこ成功している3人が、相談のメールをくれたんです。20代で資本主義に疑問を抱えているんですよ。当時の僕は「もてたい、もっと儲けたい」しか考えてなかったのに(笑)。
それで相談に乗っているうち、彼らもインドの佐々井さんにお会いしたいというので、年末に起業家の若者たちを連れてまたインドに行ったんです。僕も前回の渡印の時よりも仏教の勉強をしていたので、佐々井さんに質問したいことがたくさんありました。
――その才能もお金も地位もある若者たちは、インドに行ってどうでしたか?
小野 お名前を出せるのは一人だけですが、22歳の塚原大さんという合同会社KASASAGIの代表です。彼は日本の伝統工芸品を海外ブランドなどにつなげる仕事をしているのですが、佐々井さんに会うなり「お坊さんにさせてください」と。
ほかの二人の若者も出家はしないまでも、資本主義社会の中でどう生きていくべきか佐々井さんに相談していましたね。でも、彼らだけが特別ではなくて、僕は日本各地で経営者の会に呼ばれるのですが、みな同じ悩みを抱えていて、まだまだ坊主が増えそうです(笑)。
この後の自分の人生は…
――まだまだ?(笑) その話はまたいつか聞かせていただくとして、最後に今後の小野さんについて教えてください。
小野 移住先のオーストラリア、日本とインドと3か国を行ったり来たりの生活になると思います。財産のほとんどを手放した今、格安航空券を探したりと限られた中でできることを求めてさまよう日々です。
でも以前のように、あくせくすることはありません。インドのお坊さんは心おだやかに、常に慌てず行動することを心がけているようでした。実際、インドの袈裟と雪駄をつけていると物理的に早く歩くことができない。大切なものを見過ごさないように、あえて少しずつしか歩めないんです。ジョギングしながら電話会議していたタイムパフォーマンス時代から考えると激変ですよ(笑)。
資本主義の中で、誰かに何かを求めて生きていくのはもう充分。この50年足らずの半生で、たくさんの恩を多くの人からいただいた。この後の自分の人生は、佐々井さんのように世の中の人のために使いたい。まだ何も分かっていない新人坊主ですが、ご縁を大切にゆっくり歩んで行こうと思います。
インタビュー写真 今井知佑/文藝春秋