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Nさんが盗られたデジタルカメラの画像を復元

 翌日から山岳救助隊員総出の山岳パトロールがはじまった。青梅署刑事課では町での捜査にも着手した。そして何日かあと、刑事課員の執拗な贓品捜査の甲斐あって、Nさんが盗られたデジタルカメラの発見となった。その中に残っていた画像が復元され、顔写真が手に入り、写っていた男の名前も割れた。その写真を被害者であるNさんとTさんに見せると、2人とも「この男に間違いない」と証言したという。 

 男は住所不定、無職の「H」(55歳)で、以前は都内のО市に住んでいたという。被害者のNさんには本名を名乗っていたことになる。

 刑事課ではHの逮捕状を取り、山岳救助隊は連日の山狩りとなった。とくに一杯水避難小屋と酉谷山避難小屋には「夜討ち朝駆け」をかけ、そのため私も交番の2階に泊まり込んで、朝の3時に山へ出発することもあった。

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 駅やバス会社などにも顔写真を配り情報を求めた。早朝の駅ホームに張り込みもかけた。夕方山から下りてきたところに、バスの運転手からHと似た男を大丹波まで乗せたという情報が入り、すぐさま取って返し一杯水避難小屋まで登っていったが空振りに終わった。

 1週間もすると、山岳救助隊員にも焦りが出てきた。Hにしたっていつも山に登っているわけではないだろうし、次もこの山とは限らない。そしてもう奥多摩には来ないかもしれない。しかし「あいつは金がなくなったら、またかならずここにやってくる」と信じ、粘り強く山岳パトロール、早朝の張り込みなどを続けた。

救助隊員の執念で犯人逮捕

 6月18日の朝、奥多摩駅前に青梅署生活安全課が作成した「奥多摩で強盗事件が発生しているので単独登山は自粛するように」と呼びかける看板が出された。第3の犯行が起こってからでは遅い。不本意ではあるが犯人が捕まっていないのだから、しかたがない措置であろう。

 その日の午前11時過ぎ、奥多摩交番に在所していた私のところに、有馬小隊長から電話連絡が入った。有馬小隊長は山内隊員と大丹波林道周辺をパトロールしているはずだった。「いま、真名井橋のところで山内と2人で不審な男を職務質問している。 男はHと名乗っており、手配の写真と似ている。刑事課には連絡した」というものであった。

「やったぞ。すぐ向かう」と電話を切って、交番にいた大塚隊員、佐藤隊員と3人でパトカーに乗り緊急走行で大丹波に向かった。

 大丹波林道は獅子口小屋跡を経て、日向沢ノ峰、蕎麦粒山とたどり一杯水避難小屋に登る登山口でもある。私もつい先日、逆コースをたどりパトロールし大丹波に下山している。「ついにやったぞ」。パトカーの中で私は少し興奮していた。青梅街道から大丹波に入り、15分後真名井橋に到着した。

 橋のたもとに有馬小隊長と山内隊員、それに数人の私服警官がたむろしていた。その真ん中に手錠をかけられた小柄な男が立っている。私は刑事に「Hに間違いはないか」と聞いたところ「間違いない」と言う。そばにいた山内隊員に「やったね」と労いの言葉をかけた。