大橋七段との関係性が他の棋士と異なるところは、昼は数えきれないくらい食事をしているのに、夜は片手で数えられるほどしかないことである。
あるとき、対局で敗れた当時棋士デビューしたばかりの都成竜馬七段が、飲みに行きますかと東京から連絡してきたことがあった。それを大橋七段に伝えると私も行きますと言われたので、先に軽く夕食をとったり、棋士室で将棋を指したりして都成七段が帰ってくるのを待ち、夜の11時頃に合流して三人でJR福島駅の高架下で飲んだことはあった(二人ともおそらく覚えていないだろう)。あれは非常に珍しい出来事だった。
さながら即興コントを見ているような
棋士室にふらっと来て将棋を指す人は他にも多かった。棋士だと山崎隆之八段や西川和宏六段のお二人はよくいて、将棋をたくさん教わった。
夕方くらいになると研究会も終わってくるので、空いている人が10秒将棋を始める。
山崎-糸谷(哲郎八段)戦はものすごいスピードで進んでいき、少しでも目を離すと全然違う局面になっている。さらにその間、お二人はけっこう普通に会話(漫才?)していて、観戦は忙しい。
糸谷-西川戦では何度敗れても挑み続ける西川六段を応援し(逆転負けして熱くなっている西川六段がおもしろい、という説もある)、西川良しになると盛り上がるものの、のらりくらりと逃げていく糸谷玉をなかなか仕留めきれない。「これが最後の1局で」が何局も続いていく。
こういった名対決は他にもあり、とても楽しいのでギャラリーを多く集めた。観ている人たちもまた対局者に茶々を入れ、それはさながら即興コントを見ているような賑やかな空間になる。朝の研究会が始まった時の荘厳な空気とは打って変わり、夕方は笑いがよく起きる時間帯でもあった。
一日を通して、棋士室で将棋を指しているのは棋士や奨励会有段者がほとんどで、級位者だとその中に混じっていくのにはなかなか勇気がいるものだ。
そこにあるときから一人の少年が頭角を現す。それが服部慎一郎五段で、学校終わりに毎日のように棋士室に来るようになり、手の空いている先輩を見つけては将棋を指し、また屈託なく意見を述べるのでまたたく間に人気者になった。