将棋界における師匠と弟子の関係性が注目を集めている。スポットライトが当たったのは、のちに将棋ペンクラブ大賞(文芸部門)を受賞した『師弟~棋士たち 魂の伝承~』(野澤亘伸著/光文社)の存在が大きかっただろうか。

 現在、ABEMA将棋チャンネルでは「第1回ABEMA師弟トーナメント」が放送されている。そこで、同トーナメントにも出場している谷川浩司九段と都成竜馬七段について、『師弟』から一部を抜粋して紹介する。(#1から続く)

「あの頃の自分に会ったら、叱ってやりたいです」

 小学5年生で全国小学生名人戦で優勝した都成竜馬は、同年に谷川浩司九段に弟子入りした。永世名人資格保持者の谷川にとって、初めての弟子であり、都成は入会時から注目を浴びる。「谷川門下って、やっぱり凄いことなんだ」。子ども心にも、それは誇りだった。だが奨励会では思うように勝てない時期が続く。

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「あの頃の自分に会ったら、叱ってやりたいです」

 都成竜馬は手紙の束を見つめて言う。綺麗に封を切られた封筒の中に、折り目が乱れることなく和紙が残されている。もう14、5年前のものになるが、手紙を開くと綴られた文字は今も瑞々しい。

都成竜馬七段

《今年は都成君にとって勝負の年になると思います。奨励会に入って1年4ヶ月、この間本当にしっかり勉強していたかどうか。今年結果を出せないと、都成君が棋士に向いているかどうかを真面目に考えなければいけないと思っています。お正月から厳しい言葉ばかりならべてしまいましたが、ほかの人の2倍も3倍も勉強するという気持ちで頑張りましょう。ご両親にはくれぐれもよろしくと伝えてください。 谷川浩司》

 将棋の世界で弟子を取ることは、一人の子どもの人生を預かることに等しい。棋士の養成機関である奨励会を受験するには、将棋連盟に所属する棋士の門下に入ることが義務付けられている。奨励会の試験は毎年8月に行われ、全国から「天才」と呼ばれる子どもたちが集まる。合格率は約3割。

谷川浩司九段

 しかし、本当に厳しいのは入会後にプロになるまでの過程である。合格した子どもの約8割が、年齢制限までに規程の段位に達することができないか、自分の才能に限界を感じて辞めていく。プロになれるものでも、平均8年はかかる。彼らは10代の青春のほとんどを、将棋の修行に捧げていく。

 手紙は、都成竜馬が小学5年生で谷川浩司に弟子入りした後、数年間にわたってやりとりされたものだ。当時、都成は奨励会の対局のために、実家のある宮崎から大阪の将棋会館へ飛行機で月に2回通っていた。谷川は勉強のために、そこで指した将棋の記録を送らせて指導添削を加えて返信、そして必ず自筆の手紙を添えた。地方に住む子は、東京や大阪の子に比べて、仲間と将棋の勉強をする機会に恵まれない。師の住まいは神戸にある。遠く離れた弟子のために、そのハンデを少しでも補ってあげようとした。