一軍投手コーチとして二度のリーグ優勝に貢献するなど、その指導手腕が高く評価される吉井理人氏。彼は、チームとして最高の結果を出すために、いったいどのような考えで選手に接しているのか。

 ここでは、吉井氏の著書『最高のコーチは、教えない。』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)の一部を抜粋。コーチが「コーチング」以外でやるべきこと、気をつけた方がいいことについて紹介する。(全2回の2回目/前編を読む)

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落ち込んだときは、すぐに切り替えさせる

 勝負をしている以上、負ける経験からは逃れられない。悔しい感情が湧き上がるのは当然だ。その悔しい感情を抑え込んでじっと耐えるのが、日本人の美徳とされている。

 その考え方に、僕は賛成できない。悔しい感情はその場で爆発させ、スッキリさせたうえで次のステージに向かったほうがいい。

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 とくにピッチャーの場合は、打ち込まれて交代させられたら、絶対に悔しい。落ち込むのもわからないではない。しかし、落ち込んでばかりいたら、いつまでたってもスイッチは切り替わらない。プロ野球選手として、コーチとして長年野球に携わっているが、落ち込んだままで気持ちを切り替えられる選手を見たことがない。選手としてもっとも大切なのは、スイッチを切り替えることだ。

「壁は絶対に殴るな。悔しいときは叫べ」

 ほめられた話ではないが、僕がノックアウトされたとき、ダッグアウトの裏に行って大暴れしてスイッチを切り替えた。大暴れしたからといって悔しさが完全に消えるわけではないが、気分を切り替える下地はつくることができた。そのうえで、次の登板に向かっていくメンタルを整えるほうが切り替えやすかった。精神衛生上も、落ち込んだ状態を引っ張るよりも、はるかに健全だと思う。

 もちろん、暴れ方の度が過ぎるのは良くない。かつて、ソフトバンクホークス時代のある選手が、ノックアウトされてダッグアウトに戻った直後にベンチを拳で殴り、投手にとって大事な商売道具である両手を骨折した。これは、プロ意識という意味でもやってはならない行為である。

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 1999年にニューヨーク・メッツでチームメイトになったオーレル・ハーシュハイザー選手に、ノックアウトされて激高していた僕はこう言われた。

「ヨシ、悔しいときは暴れてもいいけど、壁は絶対に殴るな。けがでもしたら、投げられなくなる。悔しいときは叫べ。大声で叫んでも、せいぜい3日ぐらい喉が痛いだけで済むから、それぐらいにしとけよ」