現役引退後、一軍投手コーチ就任からわずか1年でリーグ優勝を果たすなど、その指導手腕に定評のある吉井理人氏。同氏はこの度行われているWBC2023でも投手コーチを務めている。日本代表のピッチャー陣を支える彼のコーチング術の本質とは。

 吉井氏が執筆した『最高のコーチは、教えない。』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)の一部を抜粋し、その真髄に迫る。(全2回の1回目/後編を読む)

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最高の能力を発揮できるコンディションをつくる

 まず大切なのは、チームメンバーのコンディションだ。

 ある程度高い水準の技術を持つ選手を見ていると、彼らがその技術を一年間安定して発揮するためのコンディショニングの重要性を改めて感じる。

 当たり前だが、コンディションが良くなければ最高のパフォーマンスは発揮できない。

 ピッチングのパフォーマンスを上げるのは、コンディショニングコーチの役割が7割を占め、ピッチングコーチの役割は3割程度しかない。それぐらいコンディショニングには気を使ってほしいし、プロフェッショナルとしては基本中の基本だと思う。

©文藝春秋

睡眠と練習時間を特に意識

 コンディショニングは、まずは身体だ。肉体が健康な状態にないと、できないことが数多く出てくる。しかも肉体の状態は、精神面にも大きく影響する。気分がすぐれなければパフォーマンスの質は下がる。僕の経験からすると、トレーニングと、食事と、休養が身体のコンディショニングを考えるうえでの三つの基本だ。プロ野球選手に限らず、コンディショニングを意識する人はトレーニングと食事に気を使う。しかし、休養をおろそかにする選手はあとを絶たない。日本人は休養の取り方が上手ではない。

 とくに、技術的に未熟な選手ほど、不安を払拭しようと休まずに練習する。むしろ休んだほうが整理できることもあるので、休養をとくに意識するよう選手にも言っている。休養は、主に睡眠と練習時間だ。睡眠は言わずもがな、練習時間をある程度決めて、練習しない時間をつくるようにする。