「そのメールでグッときたのが、『後悔するな』ではなくて、『嘘でもいいから、後悔したなんて言うな』ということ。自分のなかでたとえ後悔をしていたとしても、嘘でもいいからそれを口にしてはいけない。僕に伝えたかった代表での心構えすべてを感じたんです。このメール1通だけで、『代表でやっていくうえで、これくらいの気持ちが大事なんだ』と、自分のメンタルが強くなった気がしました。篤人さんは僕なんか比にならないくらいのプレッシャーを感じながらやっていると思う。慰めてもらっている気分ではなくて、目の前に先輩のでっかい背中が見えた気がしました」
これまで日本代表で数多くの栄光と挫折を積み重ねてきた内田に、“代表とは何か”、“代表選手とは何たるものか”をたった一言で教えてもらった。
「涙が止まらなかったけど、そのとき、『ここで落ち込んでいる暇はないな』とパッと切り替わったんです」
内田のメールにはさらに続きがあった。
「俺も早く怪我を治して、一緒にお前とプレーできるように頑張るから」
この言葉にも浅野の心は震えた。
「『どれだけこの人、でかい人間なんだ』と思いましたね。ひとりバスの中で鳥肌が立って、さらに涙を流しながら感動していました」
それ以降、浅野のメンタリティーは大きく変化した。シュトゥットガルトでも代表でも、たとえノーゴールでもミックスゾーンでは気丈に振る舞うようになった。
ワールドカップ行きのゴールをきめたが、本大会メンバーには選ばれなかった
この出来事から約1年後の2017年8月31日、彼は日本中に大きなインパクトを残すことになる。
FIFAワールドカップ2018 ロシアのアジア最終予選である日本対オーストラリア。ホームの埼玉スタジアム2002で行われたこの一戦は、勝てば日本のロシアワールドカップ出場が決まるという重要な一戦だった。
5万9492人の超満員に膨れ上がったスタジアムを、歓喜の渦に巻き込んだのが浅野だった。
22歳の若いストライカーだった浅野は、この緊迫した試合でスタメン出場を果たすと、0-0で迎えた41分にヒーローとなる。
左サイドで縦パスを受けた長友佑都のクロスを、左足で流し込むようにゴール右隅にボールを沈めた。
地響きのような歓声が鳴り響くスタンドに向かって、定番のゴールパフォーマンスになった、渾身のジャガーポーズを披露した。
この一撃は、試合を決める決勝弾となった。82分に追加点を挙げ、2-0の勝利。チームをロシアワールドカップに導いた。