あのシーンは、冷静に判断をしたうえでの“最良の選択”だった。では、なぜ彼は「パスを選択したことを後悔した」と言ってしまったのか。
それはチャンスを逃した瞬間のスタジアムの雰囲気に、まだ経験が浅かった彼が完全に飲み込まれ、我を失ってしまったことにあった。
「僕のなかではあの経験はすごく大きかった。あのとき、僕はメンタルがやられていて、すぐにメディアの前で『パスを選択したことを後悔した』って言ってしまった……。僕は『後悔した』という言葉を発した自分に後悔したんです。それはいまでも強く後悔しています」
冷静かつ正常な判断ができないまま、インタビューでの発言につながってしまった。
「もし、あそこでシュートを打ったとしても、外れていたら周りは『何で中を使わないんだ』とか、『フリーの選手が見えていなかった』と言われてしまう。結局、ミスをしたら言われるんです。あのとき、僕がメディア対応で言わなければいけなかったのは、『それ(パス)がチームの勝利につながると思って、自信をもってパスをしました。でも、パスミスをしてしまった。次にああいう場面がきたときに、パスを通せる技術を上げないといけないと思いました』ということ。パスした選択は僕のなかでは決して間違いじゃなかった」
感涙した一通のメール
浅野があの出来事を消化できたことには理由があった。
ボスニア戦のあと、我を見失ったままチームバスに乗り込んだ浅野の下に1通のメールが届いた。送り主は内田篤人だった。
「自分が選択をしたことで、ちゃんと見えてパスを出したんだから、嘘でもいいから『後悔した』なんて言うな」
この文章を読んだとき、浅野の心は大きく揺さぶられた。自分の愚かさを嘆くとともに、内田の偉大さを一瞬にして感じとったという。
「吹田スタジアムからホテルに帰るバスの中でメールを見て、僕はさらに後悔したんです。ああ、俺は言ってはいけない言葉を言ってしまったんだと」
再び目から涙があふれてきた。