2022年のカタールワールドカップで、森保一監督率いるサッカー日本代表が優勝経験をもつ強国のドイツとスペインを撃破。約30年かけて「ドーハの悲劇」を「ドーハの歓喜」に変えた歴史的な大会となった。
ここでは、カタールワールドカップの熱狂やその舞台裏、中心選手たちの素顔や苦悩、歓喜を描いた安藤隆人氏の著書『ドーハの歓喜 2022世界への挑戦、その先の景色』(徳間書店)より一部を抜粋。ドイツ戦で逆転ゴールを決めたストライカー、浅野拓磨選手の素顔を紹介する。(全2回の1回目/2回目に続く)
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7人兄弟の3番目
「僕は“感謝”という言葉をよく使いますが、僕のなかで感謝は原動力なんです」
ドイツ戦のあと、浅野拓磨はこう思いを口にした。
「たとえ、目標や夢をもてたとしても、それに対して、常に頑張り続けることは難しい。でも、そんなときに力を与えてくれるのが感謝の気持ち。べつに『感謝の気持ちをもて』と言いたいわけではないんです。感謝の気持ちは押しつけるものではなくて、自分で勝手に感じるもの、心の底から自然と出てくるもの。僕は両親に『サッカーをさせてくれてありがとう』『送り迎えしてくれてありがとう』『試合を見にきてくれてありがとう』『四中工に入れてくれてありがとう』『ここまで育ててくれてありがとう』という感謝の気持ちがあるから、自然と目標ができるんです。恩返し自体が僕のなかで目標になるんです」
強敵ドイツをどん底に陥れた疾風のストライカーは、なぜ、激戦のあとにこう発言したのか。この言葉はこれまで歩んできた人生に起因する。
彼を初めて見たのは、彼が四日市中央工業高校(以下、四中工)の1年生のときだった。
第一印象は、「すごく気を使えて周りが見える賢い選手」というものだった。
当時から爆発的なスピードをもちながらも、多くのアイデアと引き出しをもち、変化をつけたプレーができる。それでいて人懐っこい性格で、口調も穏やかなうえユーモアセンスもある。非常に魅力的な人間性をもっていた。
そして、いちばんの魅力は、サッカーに対する覚悟と意思を包み隠さずに自己主張できる人間だということだった。
三重県菰野町で、7人兄弟の3番目として生まれた彼は、幼いころから周囲に気を配ることができた。
「上も下も両方見ているので、バランサーというか、常に全体を見る癖があると思います」