1ページ目から読む
2/5ページ目

 2年目で出番を得ると、3年目の2015年には森保監督からの信頼をガッチリとつかんでレギュラーを獲得。J1リーグで8ゴールをマークし、リーグ優勝の立役者のひとりとなった。

 2016年に背番号が10になり、リーグ前半で大きな存在感を放つと、同年7月にイングランドのアーセナルFCに完全移籍。当時ブンデスリーガ2部のシュトゥットガルトに移籍し、そこからドイツでの日々がスタートした。

 日本代表においても結果を出した。

ADVERTISEMENT

 2016年のAFC U-23選手権(リオデジャネイロ五輪アジア最終予選)では決勝の韓国戦で途中出場から衝撃の2ゴールを決めて、U-23日本代表を逆転優勝に導いた。この活躍が認められ、彼はついにA代表に呼ばれるようになった。

 このときに、のちの彼の言動につながる大きなきっかけの出来事があった。

サンフレッチェ広島時代の浅野拓磨 ©文藝春秋

「パスを選択したことを後悔しています」の真意は

 2016年6月7日、市立吹田サッカースタジアムで行われたキリンカップ2016決勝のボスニア・ヘルツェゴビナ戦。

 この試合で彼は1-2で迎えた後半アディショナルタイムに、清武弘嗣のパスを受けてGKと1対1になった。

 周りはシュートを期待したが、浅野は中央でフリーになっていた小林悠へのパスを選択。この横パスが相手守備陣に引っかかってクリアされてしまい、決定的なチャンスをフイにした。

 このシーンに対し、周囲は「消極的な姿勢」「なぜシュートを打たないんだ」と、彼のプレーを辛辣に批判した。パスが引っかかった瞬間、スタジアムも大きな落胆に包まれた。そして、その後の浅野の言動が批判をさらに加熱させた。

 試合後、彼は人目をはばからず号泣。その姿に当時A代表の柱だった本田圭佑ら周りの選手に慰められるほどだった。

 さらに、試合直後にピッチサイドで行われるTVのフラッシュインタビューで、そのシーンについて聞かれると、

「パスを選択したことを後悔しています」

 と彼自身が答えたことで、あのシーンは、「シュートを打たない消極的な姿勢が生み出したシーン」「自信がない証拠」と、決定的に印象づけられてしまった。

 しかし、彼の捉え方はまったく違っていた。それからしばらくして、彼に話を聞くと、こう口を開いた。

「あのとき、もちろんシュートも考えたのですが、僕はすごく冷静に周りが見えていて、対峙したGKとゴールの位置、中にいた小林選手がはっきり見えたんです。自分が打つよりも、小林選手が打ったほうが入る確率が上がると考えて、パスを選択した。ただ、そのパスの精度が低かったんです。僕が反省すべきなのは、シュートを打たなかったことではなく、高い精度のパスが出せなかったことなんです」