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小学6年生で191センチ、でも「お前はレギュラーでは出れない」…スラムダンク奨学生が米国留学で思い知った「現実」

小学6年生で191センチ、でも「お前はレギュラーでは出れない」…スラムダンク奨学生が米国留学で思い知った「現実」

『スラムダンク奨学生インタビュー その先の世界へ』より#2 谷口大智選手編

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 たしかに、日本では際立っていた高さもアメリカでは埋もれてしまう。他のビッグ・マンとの違いを見出そうと考え抜いた結果導き出したのは、「シュートレンジ(※2)を広げる」ことだった。入学後まもなく訪れることになるサマースクールでは、受け入れ先の大学で練習参加を直訴。自由に使えるウエイトルームでは先輩・並里直伝の「めちゃめちゃキツい」メニューで身体をいじめ抜いた。時間があればまず練習した。

 センターとしてゴール下に君臨し続けてきた谷口にとって、シュートレンジを広げる=アウトサイド(※3)からのシュートの修得はほぼ0からのスタートになる。

「いきなり打てるものではないんです。スリーポイントシュートなんて練習でも届かなかったですね。1年かけてミドルレンジ(※4)でロングツー(※5)まで打てるようになるのが精一杯でした」

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 ここで「打つ」とは、ただのシュートではない。シュートを「決める」までを含めて「打つ」だ。

「決めて当たり前、というマインドでないとなめられるんですよ。所詮相手じゃないから好きにしていいよ、みたいな態度をとられていたので。そこでインサイドを攻めると『あらよ』って感じで簡単にブロックされる。さらにアウトサイドでボールを持つと、『いいよ、そこから打ってみろよ。外したのをリバウンド(※6)で取るから』って、小ばかにした空気が生まれる。こっちからすると、その空気感がすごく悔しくて。だから、わざとマークを外された時のミドルレンジのシュートは絶対決め切ってやる、決め切らなきゃいけないと」

 必死だった。なのに、結果は空回りするばかり。日本では自分の思い通りになることの方が多かったのに、全く逆の状況に陥ったアメリカでギャップに苦しんだ。

練習に明け暮れた体育館。気晴らしに日本人留学生たちと夜に忍び込み、鬼ごっこをしていたという意外なエピソードも。撮影/宮地陽子

 当時を思い出すと、すべてが「我慢」という言葉に集約される。

「思い通りにならないことだらけのなかで、自分では変えられないこともある。価値観や、自分と周囲の認識の差はどうしようもない。コーチに『こんなに頑張ってる俺をなんで使わないんだ』と言ったところで何も変わらない。ぐっとこらえて結果を出すしかない。学校生活もそうです。英語が分からないからって、投げやりになっても何も変わらない。先生の話を聞き続けながら、分からないことと向き合う。耐えて、地道にちゃんとステップを踏んでいくしかない。もちろん楽はしたいけどできない。我慢するしか選択肢はなかったんです」

 困難に直面したスラムダンク奨学生たちが見出した、挑戦することの意味や価値とは――。『スラムダンク奨学生インタビュー その先の世界へ』は集英社より発売中。

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※1 インサイド ゴール下のエリア。

※2 シュートレンジ シュートを打てる範囲のこと。

※3 アウトサイド ゴールから離れたエリア。主にスリーポイントライン付近。

※4 ミドルレンジ スリーポイントラインより内側でゴール下のペイントエリアよりも外側のエリア。

※5 ロングツー 距離の長いツーポイントシュートのこと。

※6 リバウンド シュートが外れリングやボードに当たって跳ね返ってくること。

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【谷口大智(たにぐち・だいち)】

 1990年4月15日生まれ、奈良県出身。2006年洛南高校に入学し、ウインターカップ3連覇を達成。この間にU15、U18日本代表にも選出される。卒業後、スラムダンク奨学金第2期生としてサウスケントスクールに入学。10年、2年制のアリゾナウエスタン大学を経て4年制のサウスイースタンオクラホマ州立大学に進学。卒業後、15年に秋田ノーザンハピネッツ(bjリーグ/Bリーグ)に所属。19年より広島ドラゴンフライズ(Bリーグ)、21年に茨城ロボッツ(Bリーグ)、22年より島根スサノオマジック(Bリーグ)に所属。センター、パワーフォワード。201cm、105kg。

スラムダンク奨学生インタビュー その先の世界へ

宮地 陽子 ,伊藤 亮

集英社

2023年1月26日 発売

小学6年生で191センチ、でも「お前はレギュラーでは出れない」…スラムダンク奨学生が米国留学で思い知った「現実」

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