ICUでは、死亡事故以外にも問題が頻発。医師不足で対応できず。
さらに、別の関係者によると、9月以降のICUでは、死亡事故以外にも問題が頻発していた。集中治療医の不在をカバーするため、ICUの患者に異変が起きると、救命救急センターや麻酔科の医師が駆けつけることになっていたが、医師不足で対応できないケースがしばしば起きていたのだ。
こうした状況に対し、女子医大の40代医師は、医療安全体制の崩壊を引き起こしたのは、経営陣だと批判する。
「夜間のICUに専任の医師が不在なのに、『特定集中治療室管理料 3』を得ていたのなら、診療報酬の不正請求ですし、そもそも集中治療科の医師に、嫌がらせのようなこと(懲戒処分など)を繰り返して辞めさせたのは、現経営陣です。一貫性がなく、行き当たりばったりの経営が、現在の混乱した状況を引き起こしました」
振り返れば2001年に、女子医大病院で心臓手術を受けた、当時12歳の少女が死亡する事故が起きた。その遺族らが「診療報酬で不正請求をしているのではないか」として、厚労省に通報したという。その結果、カルテの改ざんや診療報酬の不正請求などが判明、女子医大病院は診療報酬の返還請求を受け、「特定機能病院」の承認を取り消された。
その後、2007年に再承認されたが、2014年にはICUで鎮静薬プロポフォールの過剰投与により、2歳男児を死亡させて、再び「特定機能病院」の承認は取り消しとなり、現在に至る。
現代の高度医療はICUと集中治療医がいてこそ成り立つ
特定機能病院とは、厚生労働大臣が承認した、高度医療の提供や開発などを担う医療機関を指す。診療報酬や補助金などで優遇され、医学部のある全国81の大学のうち、女子医大と新設校を除く全ての大学病院が、特定機能病院に承認されている。
女子医大の関係者によると、再び特定機能病院の承認を取るためには、医療安全体制の確立が絶対条件だと厚労省から示唆されていたという。
集中医療の最前線に立ってきた、帝京大学の福家伸夫名誉教授は、高度医療を行う大学病院のICUには、集中治療専門医の存在が必要不可欠と指摘する。
「ICUで管理する患者は生命の危機に瀕しているケースが多く、わずかな変化が致命的になるので、24時間体制で集中治療に専従する医師が必要です。人工呼吸器の管理技術も、集中治療専門医と非専門医では全然違います。現代の高度医療は、ICUと集中治療専門医がいてこそ成り立つ。女子医大病院が特定機能病院の再承認を目指すのであれば、診療体制を改善しICUを充実させる必要があります」
重大な医療事故を繰り返しながら、医療安全の要である、ICUの杜撰な実態が明らかになった女子医大病院。今後、厚労省から診療報酬の不正請求が認定された場合、岩本絹子理事長らの経営責任が問われることは必至だ。
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