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勤務記録がないICUの管理日誌

 人工呼吸器やECMO(体外式膜型人工肺)などを使い、命の危機に瀕した患者を“24時間体制”で、集中治療医と看護師が治療や看護を行うのが、ICU(集中治療室)だ。新型コロナの重症患者を救い、多くの人がその存在を知るようになったが、高度な外科手術を受けた患者の管理などもICUの重要な役割であり、大学病院にとって「医療安全の砦」というべき重要な部門である。

 去年8月時点で、女子医大病院のICUには10人の集中治療医が在籍し、ベッド数は全国トップクラスだったが、経営陣の不可解な懲戒処分を受けるなどして、同9月までに9人が退職に追い込まれた。

 そして、その翌月、専門医不在のICUで、消化器外科医が60代の患者から胸水(胸膜腔に溜まった水)を抜く際、ミスをして死亡させる事故が起きたのである。(#14を読む)

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 女子医大病院を監督指導する立場にある関東信越厚生局としては、死亡事故が起きたICUについて厳しくチェックするのは必然だった。一体、どのような指導が行われたのか。担当の病院事務長が、2月10日の病院運営会議で教授たちにこう報告した。

「ICUの管理日誌に、誰が夜間に勤務しているのか、何時から勤務しているのか、という記載が抜けている、または日誌が無かった日もございました。ICUについては常時、医師が24時間いなくてはいけないという要件がありますが、(厚生局からは)ずっと医師がICUにいることが確認できない、という指摘がございました。最悪、要件を満たさないものに関しては、過去5年間調べて、(診療報酬の)返還という可能性もあります」(一部要約・抜粋)

夜間の女子医大病院ICU(東病棟2F)

診療報酬の不正請求になる可能性が高い

 女子医大病院のICU管理日誌は、勤務時間帯ごとの医師の名前、入室患者数、病名などを、医師が入力したものをプリントアウトし、責任者の印を押して保存していたという。仮に、医師が24時間体制で勤務していなければ、診療報酬の不正請求になる可能性が高い。女子医大の関係者は、次のように証言した。

「厚生局の調査は、管理日誌と医師の出勤簿を突き合わせるなど徹底しているので、不備があれば、すぐに見抜かれてしまいます。まして、ICUの集中治療医10人中9人が退職したと報道されているわけですから、誰が考えても24時間体制を維持できるわけがありません。医療事務の感覚として無理だと判断しますので、“誰かの指示”を受けて診療報酬を請求したということです」

 厚生局の調査によって“ICUに夜間勤務した医師の記録がない”、という杜撰な管理実態が明らかになったが、集中治療医の大半が辞めたのに、なぜICUの維持にこだわったのか? 考えられるのが、“高い診療報酬”である。