『はなちゃんのみそ汁』の著者・安武信吾さんは、全国で講演活動を行っています。妻の千恵さんは、乳がんの闘病中に食事療法や代替医療にも積極的に取り組みました。その経験から、講演の場ではさまざまな相談を受けるのだといいます。がん患者の家族として、信吾さんやはなさんは、千恵さんとどう向き合ってきたのでしょうか(全3回のインタビュー。#1、#2が公開中です)。
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がん患者は一にも二にも規則正しい生活が大切
──講演では、治療法や家族の心構えなどについて聞かれることも多いのでは?
安武 「妻を助けるには、どうしたらいいでしょうか」というような相談は、よく受けます。僕は医者ではないので、治療のことは答えられませんが、がん患者の家族としてどう接してきたか、という話なら、失敗談も含めていくらでもお伝えできます。
──たとえば、どんなことですか。
安武 がん患者は一にも二にも規則正しい生活が大切です。季節の食材を食べて夜更かしをせず、十分な睡眠を取ること。がんに付け入る隙を与えないよう、体の抵抗力をつけるのが大事だと医者から言われました。
でも、2004年11月に、千恵の肺にあったがん細胞が消えた時、僕たちは緊張が緩んでしまったのか、闘病前の生活に戻ってしまったんです。深夜にブログを書いたり、イベントの2次会で羽目を外したり。千恵は食事療法についての講演をすることもありました。
──「がん患者である」という自覚が緩んだ?
安武 そうですね。僕がもっと慎重になって、ブレーキ役を務めなければいけなかったのに、体が元気なので、つい油断してしまったんです。
「『しまった』と気付いたときは、もう手遅れかもしれません」と、代替医療を指導していた医者に言われた言葉が、今も頭から離れません。がんは恐れすぎてもよくないですが、「油断」が命取りになることもあります。がん患者を支えるご家族の方には、そのことを忘れないでほしいと、ぜひ伝えたいです。
──がん患者が病気に立ち向かうために、家族の支えは原動力になります。
安武 がんと告知された直後に男性から婚約解消された人や、告知後に夫の協力が得られず、離婚した人など、病気が原因で引き裂かれる現実があります。僕は、病気だからこそ、家族は一枚岩になって立ち向かわなければいけないと思っていました。僕は全力で千恵を支えたつもりですし、千恵もブログで〈私は、それに関してはツイていた〉と振り返っていますが、支えきれなかった部分もありました。
──「支えきれなかった」というのは、具体的にはどんな部分ですか。
安武 たとえば、ホルモン療法による副作用もその一つです。更年期障害と同じような症状が出て、うつ状態に陥っていた千恵が、感情のコントロールがきかずに娘を叩いているのを見た時は、目を疑いました。主治医に「全部薬のせいで、千恵さんのせいではありません」と言われても、千恵とどう接していいのか分からなくなり、口論になることもありました。「大丈夫だよ」とどうして言ってあげられなかったのか。今も悔やまれます。