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『はなちゃんのみそ汁』 家族は乳がん闘病中の千恵さんとどう向き合ってきたのか

著者・安武信吾さんインタビュー #3

2018/02/27

「『がん』を『ぽん』に言い換えて」

──ほかに、気をつけていたことなどはありますか。

安武 明るい雰囲気をつくるよう、いつも心がけるようにはしていましたね。千恵は「がん」という言葉に敏感でした。「あいつは社会のがん」などの会話から、「自分を否定されたような気持ちになるから」と、「『がん』を『ぽん』に言い換えて」と言ったり。だから僕は「乳ぽんの調子はどう?」なんて返していました。

──「笑い」も大事にされていましたよね。

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安武 千恵は、お笑いタレントの清水ミチコさんの「追っかけ」だったんです。千恵がお気に入りだった清水さんのネタに、パーカーのフードを頭にかぶってひもを絞り、フードの隙間から片目だけが見えている「目マン」というパフォーマンスがありました。千恵がある日この恰好をした自身の写真をブログで公開したら、「私もやってみたい」「元気が出た」などと全国から多くの反響が寄せられて。

「笑い」は、理屈抜きで人を元気にしてくれる“特効薬”なんですよね。「目マン」の恰好でポーズを取る千恵の写真を見るたびに、そう思います。

千恵さん扮する「目マン」 ©安武信吾

「はなちゃんはどうして毎日みそ汁を作るの?」

──「人の悪口を言わない。笑顔を忘れない」は、千恵さんがはなさんに残した「約束」でもあります。

通っていた保育園で参加した「みそづくり講習会」

安武 千恵が亡くなった後、僕は、はなが僕のためにみそ汁を作ってくれたことがとても嬉しかったですし、はなははなで、泣いてばかりいた父親が、自分の作ったみそ汁を食べて笑顔になったのがすごく嬉しかったんだと思います。本が出る前、新聞の記事を見たテレビ局が取材に来たことがあって、娘に「はなちゃんはどうして毎日みそ汁を作るの?」って聞いたんです。

 たぶん「ママと約束したから」という答えを期待していたんでしょうけど、はなが言ったのは「パパが笑ってくれるから」でした。幸せって関係性ですよね。相手に笑って欲しいから、喜んで欲しいから、作るんです。「おいしいね」という言葉と笑顔は、人を幸せにすると僕は思います。