「霞ケ関の食堂で飲料水にすれば風評被害対策になる」
「ならば海水ではなく淡水で薄めて、ペットボトルに入れて飲料水にしてみてはどうでしょう。桜のマークを入れるなどして売ったらいい。災害備蓄品としても使えます。霞ヶ関の省庁の食堂で飲料水にするなら、風評被害対策になるのではないでしょうか」と提案する。
そして、「我々は当事者だから、飲めと言われれば“トリチウム水”だって飲みます。でも、一般の国民は飲めるでしょうか」と首をひねる。
注意しておかなければならないのは、宮城の漁師には何ら罪はないという点だろう。加害者の立場にある政府や東電が、被害者の漁師にここまで言わせているのである。
寺沢さんは政府が流しているPR動画についても苦言を呈する。
「『考えよう』と国民に投げ掛ける内容になっています。そうじゃないですよね。『飲んでもいい水なので、宮城県産品も安全だ』と言ってもらわないと」
「関係者の理解なしにはいかなる処分(放出)も行わない」。これは政府や東電が繰り返し述べてきた約束だ。岸田文雄首相も今年3月11日、福島市で改めてこの約束を「順守します」と発言した。これには宮城県内の漁師から極めて強い批判がある。
宮城県漁協は「放出反対」で一貫しており、撤回する考えはない。
「約束を順守する」なら、放出は行えないはずだ。ところが、東電は放出のための工事を着々と進めていて、政府も「春から夏頃」という放出開始見込みの時期を決めている。
「『順守』とは『約束を守る』という意味でしょう。言っていることとやっていることが反対です。このままなし崩し的に放出を始める気なのでしょうか」と寺沢さんはあきれ顔だ。
「結局、我々が反対しても流すのです。ならば、『反対はあるけど流す。何かあったら全面的に責任を持つ』と言うべきです。『腹をくくれや』と言いたい」
風評被害を起こす“国”は何をしているのだろうか
「放出反対」の宮城県漁協は、風評被害が出た場合の賠償交渉のテーブルについていない。反対しているのに、賠償交渉するのは、理屈として通らないからだ。
という状況にあるのに、東電は賠償基準を発表した。「勝手に発表しておいて、私は『何一つ認めない』と言っています。全国の価格動向と比べて上昇したら賠償しないと言っているようですが、例えば今年のノリは九州方面が不作で、こちらは値段が上がっています。こうした事情を除外して風評被害との関係をどう判断するのか。そもそも毎日価格変動する中で、そうして一年が終わった時にトータルで今年はよかったな、悪かったなという計算をしているのが私達の経営なのです」と話す。