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“息子”として仕事とプライベートの両面で支える存在に

「それを言ってからは、彼がせがれのように思えてきて、彼も私のことを本当の母親のように慕ってくれるようになった。それで私、こういう生き方もありだと思ったの。『こういう子たちはたくさんいる。その子たちの力になってあげられるかもしれないな』と思ったのはそのときから」

 原田は現場で腕を上げるとともに、人懐っこいとはいえないまでも、ほかの従業員とのコミュニケーションを取るようになり、実力で取締役に抜擢された。“息子”として、仕事とプライベートの両面で廣瀬を支える存在になっていった。

 有言実行タイプの廣瀬は、原田の親にも何度か会いに行き、家族仲の悪さや、ゴミ屋敷と化した実家を確認。ますます本気で、母ちゃんは自分だと思うようになったそうだ。

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 ここまでの関係になれたのは今日まで原田のほかに数名だけ。こっちがその気になっても、やめたり、行方不明になったり、ケンカ別れで終わったり、いい方向にいかないケースもある。

「このくそガキ」「うるせぇくそババア」

 原田とは、いまだに年に2回くらいは大ゲンカするという。もめたら最後、お互いに遠慮なしのバトルが繰り広げられるのだ。1年前のケンカを再現するとこんな感じになる。原田は体調を崩してうつ気味になり、仕事に出られない状態が続いて食事もろくにとらず、アパートの家賃も払えないので、廣瀬の自宅に住み込んでいた。母ちゃんとしては心配な状況だが、調子の良くなってきた原田は女遊びにうつつをぬかしているように見えたので、廣瀬の堪忍袋の緒が切れた。

「おまえね、そうやってタダ飯食って、なのに女遊びしてふざけんじゃねえ。しかもバイクを買うってどういうことだ」

「バイクに乗って何が悪いんだよ」

「優先順位が違うんだ。そういうのは仕事に出てからにしろ」

「俺はまだ病気で、治りかけているときに女と遊んだって、母ちゃんに関係ねえだろ」

 言ってはならないひと言が拍車をかける。

「関係なくねえんだ、このくそガキ」

「うるせぇくそババア」

「じゃあもういいよ、さようなら」

 まるで本物の親子ゲンカである。