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「人が持っているものは欲しくない」

 一条の作品には、若さ、地位、金、才能を、「持つ者」と「持たざる者」に振り分けられた男女4人組が頻繁に登場し、彼らを軸に物語が進んでいく。にもかかわらず、同じ話はひとつとしてない。この座組で、よくこれだけバリエーションに富んだストーリーが描けるものだと圧倒される。

「デビューしたとき、作品のストックがないか尋ねられたこともありました。なぜ、わざわざ昔の服を出してくるようなことをしなきゃならないのかと思った。私はいつも、いまの私の最高を出したい。将来こんなのが描きたいって話もよく同業者から聞いたけど、なぜいま描かないの? と。その情熱は、一年経ったらどうなるかわからないでしょ?」

 当時の少女漫画には、「キスシーンはNG」というような編集ルールがあった。一条は情熱の鮮度を落とすことなく、それらをかいくぐって描いた。少女たちを囲う柵を、アイディアと技術でどんどん壊し、柵の外の魅惑的な景色をこれでもかと見せた。デビュー以来、彼女が第一線から退いたことは一度もない。少女漫画の女王と言われる所以がここにある。

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一条ゆかりさんの名言が詰まったエッセイ、『不倫、それは峠の茶屋に似ている たるんだ心に一喝!! 一条ゆかりの金言集』(集英社)

「人が持っているものは欲しくないし、自分だけが持っているものが欲しい。そういうのがすごくある。成功したい、有名になりたいとは思っていなかったの。そんなものは、どうでもいいこと。ただただ漫画が好きで、漫画だけで生活できたら、どんなに幸せだろうと思っていましたから」

 高校を卒業し、岡山から単身上京してきた日は大雪だった。上野から歩いてほうほうのていで御茶ノ水にたどり着き、風呂なし4畳半の下宿でひとり暮らしを始めた。その後に新宿へ移り住み、引っ越しを繰り返しながらも、新宿区からはしばらく離れなかった。

 ファッション業界を舞台に母と娘の物語を描いた『デザイナー』は、一条のオリジナリティーを確立した作品だ。新宿時代に、24歳で描き始めた。

 本作で、一条にしか描けない世界が世に放たれたのは、必然と言える。