むちゃくちゃ明るい、にぎやかな駅構内
隣の「ウニベルシチェット(大学)」駅のホームに列車が到着して目が点になった。地上の停電はどこ吹く風で、駅構内がむちゃくちゃ明るいのである。ただでさえ旧ソ連下の大都市の地下鉄は深く無駄に芸術的である。天井まで壁画が描かれていたり、石膏像がホームのそこかしこにそびえたりしとるが、この駅はそうやなく、キンキラピカピカに明るいのである。理由はすぐわかった。駅のホームでイベントやっとるのである。以前は暗く、難民がひしめき合って、すえた匂いが充満していた地下鉄ホームにクリスマスツリーがそびえているのである。星やトナカイのデコレーションがピカピカと点滅し、同じくホームに建てられたサンタクロースの家らしき小屋を照らしていた。
車中の乗客までもが窓の外のにぎやかな光景をスマホで撮影しはじめる。以前はカメラを見ただけで警官がすっとんできたが、今は警備員が黙って遠巻きに見ているだけである。ほんとにこの上では戦争やってるのであろうか? 市民はそれを忘れたいのかこの駅に集っているようであった。子供らがホームをはしゃぎながら走り回る。母親たちはそれをスマホ片手に追いかける。ここはロシア国境からわずか50km、ウクライナ第2の都市ハルキウの地下に広がる日常であった。
フロイフ・ブラッティ駅、地下と地上の落差
地下鉄1号線の終点がフロイフ・ブラッティ駅である。一時700人もの避難民が暮らしていた地下都市である。かつて多くの人が寝起きしていたホームにはだれも住んでいないように見える。ただホームの端の踊り場にはまだマットが敷かれ人が暮らしている形跡があり、それでもまだ10人ぐらいがこの地下で生活を余儀なくされとるという。その中にはなぜか日本人の中年男性が今も身を寄せていると聞き及び、なんどか通ったがお目通り叶わなかった。
普通の日常に見えたのは地下だけであった。フロイフ・ブラッティ駅の地上はハルキウ市東北部のサルトゥフカ地区にあたる。40万人が暮らすIT企業の城下町、多摩ニュータウン並みのヨーロッパ最大級の団地群である。首都キーウ同様、ハルキウにもロシア軍が迫りつつあり、東部や北部のツルクネ、デルガチ村等もロシア軍に一時占拠されるまでになった。国境に近いハルキウはロシア軍にとって格好の的である。特に市の東北部のに位置するサルトゥフカ団地はハルキウ侵攻の最初の標的となったのである。徹底的な攻撃を受け、40万人が住んだ団地群は、あっという間にゴーストタウンと化したのである。