食事をしている彼のもとに向かうと……
僕の隣に座っていた、サントスFCコミュニケーション部門(広報部)部長のアルナウドが目配せをしてきた。僕と一度合わせた視線をその選手が座っているテーブルのほうに向けると、短くこう言った。
「Vamos(行こう)」
僕らは席を立ち、食事をしている彼のもとに向かった。アルナウドが彼の名を呼び、話しかけた。
「ネイマール、食事中に申し訳ない。一人紹介しておきたい人がいるんだ」
彼が食事の手を止め、こちらに身体を向けたのを確認すると、アルナウドはその肩に手を置き、もう片方の手で僕のほうを示しながら続けた。
「彼の名前はタカ。日本から来たんだ。昨年のクラブワールドカップでも、僕達のことを応援してくれた、サントスのサポーターだ。そして、これからはクラブの一員として、おもに日本向けの広報、コミュニケーションを手伝ってくれることになった」
「ああ、OK。そうなんだ、了解。よろしく!」
そう言って、こちらの目をまっすぐに見ながら手を差し出してきた彼に、僕もポルトガル語で、
「Prazer(よろしく)」
と言って手を伸ばし、握手を交わした。
進路が定まらない悶々とした日々のなか、東大前の静かな学生寮の個室で、パソコンの画面に映るそのプレーを初めて観た日の衝撃から約11カ月。
ネイマール本人と、初めて直接対面した瞬間だった。
1枚の色紙を取り出し、ネイマールにサインをプレゼントした
不思議な目の色をした青年だな、と思った。ブラジルの人にしては握手の握り方があまり力強くなく、むしろ、柔らかだったのも印象的だった。
アルナウドがさらに言葉を続けた。
「ネイマール、実はこちらのタカさんが、君にちょっとしたプレゼントを用意してきたんだ」
再びネイマールがこちらに視線を向ける。好奇心に溢れた目だ。僕はアルナウドにお礼を言い、おもむろに1枚の色紙を取り出すと、ネイマールに見せた。
前日に、僕が漢字で「寧円」と書いた小型サイズの色紙だった。おわかりかと思うが、「ネイマール」の当て字だ。
「これ、漢字っていうんだけど、日本語で君の名前を書いたんだ」
「Obrigado(ありがとう)」
ネイマールはそう言って受け取ると、座っていたテーブルの一角にそのまま色紙を立てかけ、そばに置いていたスマホで写真を撮った。
どうやらその場でSNSに投稿したくなったようで、インスタグラムの画面を開いていた。「NEYMAR」とキャプションを付けて、彼はその写真を公開した。