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正直、プレゼントと呼ぶにはあまりにもささやかなものだったが、一応気に入ってもらえた様子だったので、少し安心した。
彼が写真を公開するその姿を見守ったあと、僕はあらためて色紙をこちらの手に取ると、裏面を見せて漢字の意味を説明した。「寧」は平和を、「円」は完全性を表すということをポルトガル語で記しておいたのだ。
ついでに僕のサインも添えておいたので、そのことも彼に伝えた。
「これ、僕のサイン。あらためて、タカっていうんだ」
「タカ、タカだね。うん、わかった」
食事の手を止め向き直り、真摯に誠実に向き合ってくれた
屈託のない瞳をこちらに向けながら、確かめるように二度、僕の名前を発音してくれた。聞きなれない外国人の名前というのは簡単に覚えられるものではないし、仮にその場で何とか覚えられても、遠からず忘れてしまうことが多い。しかも、彼はすでにサッカー王国のスーパースターで、数えきれないほど多くの人達と日々新たに出会う生活を送っている。
僕の名前もすぐに彼の記憶から消えてしまうであろうことは重々理解していたが、それでも彼ほどの人がいまこの瞬間、取材対応を終えてやっと迎えた昼食の時間に突然現れた謎の日本人に対し、食事の手を止めて向き直り、真摯に誠実に向き合ってくれたことが嬉しかった。そこに彼の素朴な人柄も垣間見えた。