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全107球中スライダーが51球…160km/h超の直球を投げる大谷翔平がシーズン終盤で変化球を多投するようになった“納得の理由”

『大谷翔平とベーブ・ルース 2人の偉業とメジャーの変遷』より #1

2023/04/10
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 9月10日、敵地でのアストロズ戦。この試合で、大谷の新球ツーシームの威力が発揮された象徴的な対戦があった。3回裏、打席にはMLBを代表する安打製造機のアルトゥーベ。初球スライダーをファール、2球目スライダーはボール、3球目ツーシームは空振り、4球目スプリットはボール、5球目161キロのツーシームは、インサイドに外れてボール。このとき、アルトゥーベはのけぞりながら苦笑いを見せた。「スピードがあって、曲がり幅が大きい。本当に厄介なボールだよ」。最後はスライダーで三振。そして、3回裏、最後の打者となったカイル・タッカーに対しては、MLB自己最速を更新する163.2キロのストレートで三球三振を奪った。

©文藝春秋

 5回を終了して7奪三振、球数は79球。規定投球回クリアにむけて、イニングを稼げる展開だったが、6回開始前にマウンドで2球投げたところで、右手中指のマメが大きくなり、本人の申し出により降板が決まった。

 試合後、ネビン監督代行は「大谷は、どの選手よりも体調管理に優れている。次の登板試合を考えて、降板することがベストの判断だった」とコメント。毎試合ごとに、威力と精度が増してきた新球ツーシームについて大谷は、「ボールの変化量、スピードともに満足できる状態だと思います」と自信を覗のぞかせた。大きく動き、160キロを計測する大谷のツーシームに、アメリカでは「ターボ・シンカー」なる名称が誕生していた。

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 8月9日以降、27試合で打率3割2分3厘、9本塁打、21打点、投手では6先発、防御率1・75、36奪三振の記録を残している大谷に対して、日本国内では規定投球回数クリアにむけての報道がメインだったが、アメリカ国内では二刀流としての成績向上に伴い、ジャッジとのMVP争いの行方が報道のメインとなっていた。

シーズン200奪三振、30本塁打はMLB史上初の快挙

 9月11日、敵地でのアストロズ戦。前日、右手中指のマメの影響で5回に降板したが12勝目を手に入れた大谷は、2番指名打者で出場。無死ランナー三塁でむかえた第1打席、相手先発は、手元を左右に揺らす独特の投球フォーム「ゆりかご投法」で幻惑するルイス・ガルシア。アウトコース低め、見送ればボールのカーブに反応した大谷は、体勢を崩されながら右手一本ですくい上げ、右中間スタンドに届く第34号先制2ラン本塁打となった。

 結果的に、この日の本塁打が2022年最後の一発となったが、登板翌日は7本塁打を記録したシーズンとなった。

 9月17日、本拠地でのマリナーズ戦。この日の大谷は、1回と2回だけで43球を投じる立ち上がりとなった。しかし、スライダーの精度を取り戻した3回、4回、5回はわずか39球。この日は、全107球中、スライダーが51球を占めていた。

 右手中指のマメへの影響を考慮して、ストレート系の球種を極端に減らした投球に敵将のスコット・サーバイスは、「明らかに投球の組み立てを変えていた。160キロを超えるストレートを投げる大谷が、あれだけ精度が高いスライダーを多投したら、打つことは難しい」と脱帽。この日は、7回3安打、無失点、8奪三振、二塁に進塁を許さずに13勝目を記録した。

 残り先発予定は3試合。規定投球回数まで残り14イニングに迫っていた。