新聞社がエキサイトした「差別的な料率」
──どういうことでしょうか。具体的に教えてください。
下山 ヤフーは、新聞各社へのニュース提供料の料率を個別契約で結んでいます。秘密保持条項がついているので、新聞社は互いにいくらヤフーからもらっているかわからないのです。
単行本の時、その差別的な料率を読売、毎日、地方紙とさりげなく具体的な数字で書いたのですが、新聞社のデジタル部門がいちばんエキサイトしたのが、この各社別の料率でした。産経新聞など単行本の『2050年のメディア』を読んで、ヤフーに直接抗議にいったと聞いています。ようは、しかるべき対価を払ってもらっていない、ということです。
単行本をだしたあと新聞労連の講演会によばれたときに「新聞各社が連合して価格交渉はできないんですか?」と聞かれたことがありました。この時は「独占禁止法のカルテルにあたるからできない」と答えています。
しかし、2016年ぐらいから、まず米国で、ネット上のプラットフォーマーたちに現在の独占禁止法はうまく対応していない、ということを主張するネオ・ブランダイス学派とよばれる人たちが台頭してきます。エール大学法学部のリナ・カーンや、その師匠筋にあたるコロンビア大学の法学部の教授ティム・ウーなどです。
リナ・カーンはロースクールの院生時代に「アマゾンの反競争政策のパラドクス」という論文を書いて一躍注目され、バイデン政権で、FTC(連邦取引委員会)の委員長になり、グーグルやフェイスブックなどのプラットフォーマーたちへの規制を強めていくのです。そうした流れのなかに日本の公正取引委員会もあり、とくに前代の委員長の杉本和行は、ニュースの配信がプラットフォーマーの支配的地位によって歪んでいるのではないか、ということを考えていました。
第一分科会の座長の朝日新聞の福山崇はこうした公正取引委員会と交渉し、プラットフォーマーに対してニュース配信料の原価構造を開示するよう各社は共同して交渉してよい、などの答をひきだしています。