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とうもろこし畑に現れた「幻の選手たち」

 ストーリーは36歳になったキンセラが妻と娘とともにアイオワの田舎でとうもろこし農家を始めたところから動き出す。土地を切り開き、耕して、種を植える日々。そんなある夜、キンセラは“声”を聞いた。

「それをつくれば、彼はやってくる――」

 自分だけに聞こえる奇妙な声だったが、“それ”が何を意味しているのかは不思議と分かった。声に導かれるようにキンセラは農地にスタジアムをつくり始める。親類や周囲の人たちから気が触れたのではないかと訝しがられながらも、一面とうもろこし畑の中にポツンと浮かび上がる小さな球場を完成させた。

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 すると数日後の夜、フィールドに一人の男がいるのが見えた。かつてのホワイト・ソックスのユニホームを身にまとったシューレス・ジョーだった。もう何十年も前に亡くなったはずのレジェンドはそこで野球を始めた。やがて往年の名選手たちも加わり、ボールゲームが始まった。ついには若き日の父も現れた。

 彼らは野球を終えると、とうもろこし畑へと消えていく。幻の選手たちのことが見える人間は限られていた。キンセラと家族とスタジアムの夢を信じる者だけにしか見えなかった。そのため最初はほとんどの人間がキンセラの言葉を信用しなかったが、やがて一人、また一人と往年の選手たちが野球に興じる姿を目撃するようになり、ラストシーンではとうもろこし畑に囲まれた夢のスタジアムに向かって、全米から集まってきた人々の長い車列ができる。のどかなアイオワの景色と緑の芝とユニホームの白が美しい映画だった。

映画上映後、吉村が席を立たなかったワケ

 気づけば1時間47分の上映が終わっていた。館内の照明が灯り、他の客が席を立ち出口へ向かっていく。だが、吉村は動かなかった。そのままもう一度、上映が始まるのを待った。当時の映画館は入替制ではなく、観たければチケット一枚で何度でも観ることができた。

 座席にもたれた吉村の頭に新聞記者としての掟がよぎった。たとえ休日でも、昼と夜の2度は会社のデスクに定時連絡を入れること――。一瞬、公衆電話を探そうかと考えた。だが、もうそんなことはどうでもいいような気がした。陽光の下に出るよりも、このまま闇に浮かぶスクリーンの中に浸っていたかった。

 ふと先輩記者たちの顔が浮かんだ。巨人担当記者の面々はおそらく今ごろ、抜けた自分の代わりに桑田問題の取材に奔走しているはずだ。取材力に長けたあの人たちのことだ、他紙に先駆けてスクープを打つだろう。吉村はそう確信していた。そして、すべてを振り払うようにスクリーンに向き直った。

 桑田問題も命令拒否も、あらゆることを忘れたかった。現実から逃避したかったのかもしれない。そう言われても仕方ないと自覚していた。ただ、それとは別にもう一つ、吉村には席を立たなかった理由があった。作中のある登場人物が頭から離れなかったのだ。