「日本での経験はほんとうに最高だった。このレベルで世界最高の選手たちと野球ができて、まさに夢が叶ったよう。この機会に本当に感謝しているよ」
彼の野球を始めた経緯を尋ねてみた。
「野球を始めたのは7歳の時で、ある日、父さんが野球やってみるかって聞いてきたんだ。やってみるって答えて、そこからずっとプレイしている」
チェコ代表チームが「家族以上」の間柄になるまで
WBC公式YouTubeにチェコ代表を紹介する動画があるが、そこで消防士であるシュナイダー投手や地理の先生をしているドゥボヴィー外野手が「僕たちは家族だ」と言っている。ハジム監督は「家族以上だ」とも。
これは単なる比喩というよりも、実際にそういえるほどの長い時間をチームメイトと重ねてきているからこその表現だ。
チェコの野球チームはクラブ方式になっていて、子どものうちに地元クラブで野球を始めると、同じクラブの年上の選手たちが指導する。自分が成長したら、また下の年代に野球を教える。
国内の大会では他のクラブのメンバーと試合をするが、そこでは同じ顔ぶれに試合や合宿で何年も継続して会いつづけることになる。小さな国の競技人口が少ないスポーツゆえ、彼らは子どもの頃からずっと、そして大人になってもまだ、同じ野球の輪の中にいて、長い年月をともに歩んで、野球そのものが自分の成長の場となっている。
ヨーロッパの野球の土台になる「クラブ方式」
チェコ代表選手たちがみな「野球をする子どもたちを増やしたい」と言っていたり、地元クラブのユニフォーム姿で東京ドームのグラウンドに並んだ写真をSNSに掲載したりしているのもうなずける。
WBC開催直前に、ハジム監督はチェコのニュースサイト「iDNES」のインタビューでこう語っている。
「野球にはアメリカの野球とアジアの野球という大きな流れが2つあるが、私たちはヨーロッパの野球を築くべきだ。そしてその土台となるのがクラブ方式だろう」
チェコの有名週刊紙「Respekt」によれば、1989年のビロード革命後、チェコ国内リーグができると同時に、子どもたちのスカウトをシステム化していったという。競技人口は徐々に増え、2010年に5000人を越えたあたりから代表チームの質が大きく向上、現在では1万人のチェコ人が野球をしている。WBCで実を結んだチェコ野球のクラブには、今後ますますメンバーが増えるに違いない。