頭ごなしに押し付けることはないが、振り返れば高校3年間は学びの日々だった。実際17年に現役を退くまで、木村には下北沢成徳での教えがベースにあるのだが、すべてその通りに倣ってきたかというと、例外も1つある。
「トレーニングはめちゃくちゃ嫌いだったし、サボっていました。10回上げなきゃいけないところを7回でごまかしたり。全部、バレていましたけどね(笑)」
必要であれば厳しく叱責するが、やる、やらないは自分で決めること。自主性を重んじる下北沢成徳では、長所や短所、それぞれの個性が際立っているのも特徴だ。
「中学も含めて成徳での6年間は型にはめられることがなかった。“成徳っぽい”プレーって特にないんですよね。高いトスを打つとか、トレーニングをするとか、特徴はあるけれど、私は木村沙織として6年間育ててもらったし、加奈さんも絵里香さんも成徳っぽくじゃなく、“荒木絵里香”として、“大山加奈”として、みんなプレースタイルも違う。他の学校はわりと、この学校っぽいな、という特徴があるけれど、小川先生の場合はそれがない。その人の良さを褒めて、伸ばして、自由にやりなさい、というスタイルなので。それが私にはすごく楽しかったです」
「いつも一番謙虚で、自慢の恩師です」
現役を退いて6年。国際大会のたびに解説や応援サポーターとしてのオファーを受けてきたが、「会場でスティックバルーンを持って応援したいタイプだし、主役は今戦う選手であってほしい」とスポットライトを浴びることはなかった。
根っこにあるのは「バレーボールが好き」という気持ち。その礎が築かれたのも、「木村沙織」として個性も長所も活かしてくれた高校時代なのかもしれない。
「卒業したら旅立つし、相変わらず過去は振り返らないけど(笑)、私はバレーボールを応援するし、バレーボールを頑張る人を応援する。小川先生のことも応援する。改めて考えるとやっぱり小川先生ってすごいですね。いつも一番謙虚で、自慢の恩師です。そんなこと言ったことないだろ、って絶対、笑われそうですけど(笑)」
いつも誰より楽しそうで、バレーボールが大好きだと表現して見せる。そんな木村沙織が魅せるバレーボールが何より楽しかった。
彼女の個性も長所も短所もそのままに活かす。それだけで小川の残した功績は偉大で、認めざるを得ない。これ以上ない名将だ、と。木村沙織の変わらぬ笑顔が、何よりの証だ。
撮影 杉山拓也
◆現在配信中の「週刊文春 電子版」では、下北沢成徳OGの荒木絵里香さん、大山加奈さん、木村沙織さんが小川良樹監督の勇退に寄せた勇退コメントや、4人での記念ショットの数々を限定公開しています。
日本バレーを作った男|下北沢成徳高校バレーボール部監督 小川良樹