日本女子バレー界のレジェンド選手を多く輩出してきた名門・下北沢成徳高校。同校でコーチ時代から48年間、生徒たちを指導した小川良樹監督が今年度をもって監督業から勇退する。「長時間練習」「体罰」といった学校スポーツの悪しき伝統からどこよりも早く脱し、小手先の技術でない真っ向勝負のオープンバレーで高校三冠を達成した。
今回、「週刊文春」の特集企画で、小川良樹監督をはじめ、下北沢成徳OGの荒木絵里香、大山加奈、木村沙織、そして今春に下北沢成徳を旅立った“最後の教え子”が特別インタビューに登場。教え子たちが見た、唯一無二の恩師の姿とは――。誌面で掲載しきれなかったエピソードを紹介します。(全4回の4回目/#1、#2、#3から続く)
◆◆◆
桜咲き誇る3月、下北沢成徳の3年生たちは卒業式を迎えた。
男女を問わず、全国大会に出場する強豪校では1月の春高バレーを終えた後も、1、2年生主体の新チームになって迎える最初の大会が終わるまでは練習に参加することもある。だが下北沢成徳は少々例外で、新チームが臨む最初の大会を終えても卒業式までは3年生も練習に参加する。
“これから”のためだ。
40年以上続けた「監督」を辞める時
学校を訪ねたのは昨年12月だった。
ボールを力強く叩く音と、1球1球打つたび発する声。新チーム主体の練習がスタートした中に3年生たちもいた。その光景を遠くで見る。そもそも体育館に来ること自体がしばらくぶり、という小川良樹監督が、春高予選を終えてからあえて練習に顔を出すことはしなかった理由を明かす。
「未練を断ち切るためです。チームは新しい監督のもとで次へ向かって進む、どちらにしろ諦めなければならないし、自分がいつまでもいれば選手も混乱するだけ。未練があるうちは顔を出さないほうがいいと思ったんです」
22年度限りで監督を退くことは表明していた。それでもなお小川監督の口から“未練”という言葉が出ることが少し意外で、理由を尋ねると即座に答えた。
「勝ち負けに対してじゃないんですよ。技術的にこうしろああしろでもない。選手としての考え方や競技に対する取り組み方、将来どうなりたいかということを考えさせるのが僕の仕事であり課題でもある。それをどう選手に伝えられるか、その言葉をかけてあげたいんですけど、監督じゃなくなる自分が選手に何をどう声をかけたらいいのか、正直わからない。でも仕方ないですよね。40年以上やってきた監督を辞めるって、自分にも初めての経験ですからさっぱりわからないんですよ」