「このチーム、この代は相当真面目。彼女たちの引退と、私の監督としての最後をかぶせて背負っているのはわかっていたけれど、でもその真面目さで今まで乗り越えてきたし、センチメンタルに話をしているのも彼女たちの素直な思いで感情ですから、否定しちゃいけない。でも、勝つ時はその先を見ているから『負けたらこれで終わりだ』なんて言葉は出ないんですよ。いざ試合の日になったら練習から空気が重く、試合が始まったら、こちらが考えていた以上に彼女たちの背負っているものは重かったのか、と。(監督として)春高が最後だ、と伝えてきたのは大失敗だった、と痛感しました。だから試合中も、これはもう耐えきれないだろうと思ったので、励ますしかない、という思いでしたね」
現に共栄学園との代表決定戦では、何度も選手のもとへ足を運び、声をかける小川氏の姿と、「助けてくれ」とすがるような目を向ける選手の姿を何度も見た。試合中もほとんど声をかけるどころか立ち上がることすら少ない小川監督のそんな姿を見ること自体、滅多にない。
「まさにこれからに向けた時間だったんだと思います」
予選では、東京で勝つことだけでなく、春高本戦を見据え、1年生も3人コートへ入り、インターハイまではミドルブロッカーだった古川愛梨もアウトサイドヒッターで入った。同様のケースは過去にもあり、大きな壁を超えれば、あとは劇的に伸びていくだけ。実際、黒後愛を擁して連覇を達成してきた時の代はまさにそうだった。
だが、「最後」が必要以上に重みを増す中、突き破らなければならない壁はあまりに分厚い。まだ試合を見返すこともできない、という佐藤彩夏が言った。
「去年と比べて、数え切れないほど背負うものがあって、でもそこで自分たちのプレーをしなきゃ、と思っているのにできない。もっと前向きにできればよかったんですけど、緊張感がすごくて。でもそれは自分たちだけじゃなく、1年生もそうだったはずなのに、そこへ向けられる余裕もなかったんです」
負けた後はただただ涙が出て呆然とした。そう振り返りながらも、佐藤は「だけど」と言葉を加えた。
「時間が経ってから思うのは、もしあそこでも小川先生がああしろ、こうしろと指示を出すタイプの先生で、私たちも言われた通りにやればいい、と思うだけだったら、もっとこの先、壁が増えていくだけなんだろうな、って。今は難しいし、つらいけど、それでもやっぱりこの先につながる。成徳での3年間は、まさにこれからに向けた時間だったんだと思います」
苦しくても、終わるわけにはいかない。だから、前を向く。そう話すのは、古川も同じだった。