日本女子バレー界のレジェンド選手を多く輩出してきた名門・下北沢成徳高校。同校でコーチ時代から48年間、生徒たちを指導した小川良樹監督が今年度をもって監督業から勇退する。「長時間練習」「体罰」といった学校スポーツの悪しき伝統からどこよりも早く脱し、小手先の技術でない真っ向勝負のオープンバレーで高校三冠を達成した。

 今回、「週刊文春」の特集企画で、小川良樹監督をはじめ、下北沢成徳OGの荒木絵里香、大山加奈、木村沙織、今春に下北沢成徳を旅立った“最後の教え子”が特別インタビューに登場。教え子たちが見た、唯一無二の恩師の姿とは――。誌面で掲載しきれなかったエピソードを紹介します。(全4回の2回目/#3、#4へ続く)

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 懐かしの町、下北沢。

 東京・江戸川区生まれの大山加奈が、中学、高校時代の6年間を過ごした場所だ。

 下北沢成徳高校女子バレーボール部を41年率い、今季限りで勇退を表明した小川良樹監督を「先生がいなかったら今の自分はいない」と慕い、2010年6月の現役引退から指導や競技普及にも携わる今は「私の理想」と敬う。

 小学、中学、高校とすべてのカテゴリーで日本一を経験した、まさにエリートそのものの競技人生ではあるが、振り返れば大きな転機になったのが下北沢成徳高校での3年間だったと大山は振り返る。

「2年生の春高で優勝して、たくさんの方に注目してもらえたこと、応援してもらえることが本当に嬉しかったです。満員のお客さんが見ている前、大歓声の中でプレーできたのがすごく幸せだったし、試合自体も『このまま一生終わってほしくない』と思うぐらい楽しかった。今でも当時の春高を覚えていて下さる方が多くいることも嬉しいです」

 

救世主として現れたのが“メグカナ”だった

 02年3月、春高バレー女子決勝。優勝をかけ争うのは、連覇を目指す三田尻女子(現・誠英)と初優勝を狙う成徳学園(現・下北沢成徳)。三田尻女子はエースの栗原恵を擁し、対する成徳には大山がいた。ともに187cmの大型エースで、超高校級の2人がネットを挟んで対峙し、壮絶な打ち合いを繰り広げる。結果、3対1で成徳学園が制したこの決勝は、両エースの愛称から“メグカナ対決”と呼ばれ、平成の名勝負として今なお語り継がれている。

 一方で、ちょうど同時期、日本女子バレーボール界は苦難の時代に直面していた。