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「逃げたい」と思った当時、救ってくれたのは小川先生だった

 弱気で引っ込み思案だった大山が、こうして自らの意見を臆さず発する。その過程にはいくつもの転機があったが、現役引退後に解説業やバレーボール教室で多くの人に出会い、自分の中の社会が広がったことも大きい。

 さらに、そのベースとなったのは、他者の視線に苦しめられていた高校時代でもあったという。恩師の小川監督は当時から取材を制限することなく、選手が自ら自分の言葉で発することの必要性を伝えてきた。目の前のカメラは1人の取材者でなく、その背景に数えきれないほど多くの人たちがいる。当たり前のことを教えてもらったのも、10代の頃だった。

「自分が取材する立場になった時、成徳での経験がどれだけ恵まれていたかに改めて気づきました。取材だけでなく、練習試合も申し出があればどんな相手でも必ず受け入れたし、フルメンバーで臨む。そういう先生の姿勢を見てきたから、人を敬う、リスペクトする大切さも知りました」

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 高校生の時に浴びた他者からの異常な熱。苦しめられた経験もあるが、小川先生の教えを受けて、取材を通して、自分のことを自分の言葉でしっかりと伝える方法と意味を知ることが出来た。そして、世間からの過度な期待に押しつぶされそうになっていた大山を救ったのもまた、小川先生だった。

「私自身が選手として本当に苦しくて、それこそ『逃げたい』と思っていた頃、みんなが『頑張れ』と言う中で『加奈はそこまで強い人間じゃないんだから、逃げていいんだよ』と言ってくれたのは、小川先生だけでした。こうしなきゃいけない、こうでなければならない、と思って苦しんでいたけれど『私はそんなに強い人間じゃないんだ』と思えて、心が楽になった。

 小川先生は唯一無二の存在で、その人に出会えたことは本当にありがたくて、幸せなこと。これから少しでも、私もバレー界を変えていきたいと思っているので、先生の大きな姿を見習いたいです」

 思い出の春高から間もなく21年。現在は、自らが経験した生きづらさや不安、その向き合い方を積極的に発信し続けている。次世代を、と世間からの期待を背負った剛腕で、これからの時代を生きる若者たちが生きやすく、弱さも認められるように。弱気で人見知りだった少女は、時を経て、新たな道を切り拓いている。

撮影 杉山拓也

◆現在配信中の「週刊文春 電子版」では、下北沢成徳OGの荒木絵里香さん、大山加奈さん、木村沙織さんが小川良樹監督の勇退に寄せた勇退コメントや、4人での記念ショットの数々を限定公開しています。

この記事の詳細は「週刊文春電子版」でお読みいただけます
日本バレーを作った男|下北沢成徳高校バレーボール部監督 小川良樹

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